ぼっしゅうはいや!

新世界の海を進む、モビーディック号には小さなお姫様が乗っている。

そんな彼女をクルー達は親愛の意を込めて姫と呼び、それはもう大層可愛がっているのだ。皆に可愛がられているお姫様は、今日も今日とて甲板を元気に走り回っていた。

「姫ー、転ぶなよー」
「だいじょーぶー!」

とたとた、と可愛らしい音を立てて走り回るお姫様を暖かい目で見守っていたクルー達だったが一瞬にしてその顔色が真っ青になる。

突然揺れた船と、見張り台から聞こえる大きな声。そして、ふわりと海に投げ出される小さな体。

「姫!」
「きゃあああ!」

咄嗟にクルー達が手を伸ばすけれど、その手は空を切り小さな体が落ちていく。お姫様を追いかけようとクルーの一人が舷に足をかけた瞬間、ぶわりと横を通り過ぎた青い影。その姿に全員が思わずへたりと腰を抜かした。

「ったく、だからあれほど舷には近づくなって言っただろうよい」
「ごめんなさあい」
「次に約束破ったらお前の部屋のぬいぐるみは没収だよい」
「やだああああ!」

マルコに抱えられて船へと戻ってきたお姫様は、思っていたよりも平気なようでけろりとした顔をしていた。

ただ、マルコに怒られた事が不満だったようで唇を尖らせて渋々といった様子で謝罪の言葉を口にした。それにピシリと青筋を立てたマルコが咎めるようにそう言えばじわじわとお姫様の目に涙が溜まる。

「嫌だったらちゃんと言うこと聞くんだねい」
「きく!ちゃんときく!」
「本当かい?」
「ほんと!やくそく!ゆびきり!」

甲板に降ろされたお姫様は抗議するように両の手をぎゅっと握りしめて胸の前で構える。そんなお姫様の前にしゃがみ込んだマルコがぽんと頭を撫でれば、ずいっと小さな小指が差し出される。

その小指に同じようにマルコが小指を差し出して絡める。鈴の鳴るような可愛らしい声で紡がれたゆびきりげんまんの歌に見ていたクルー達の表情がでれりと緩む。

「ってそうじゃねえ!こらー!姫ー!心配かけんじゃねー!」
「心臓止まるかと思っただろ!止まったらどうしてくれんだ!姫のバカヤロー!」

運良くマルコが助けてくれたから良かったものの、そのまま海に落ちていたら間違いなく死んでいたお姫様を想像して身を震わせたクルー達が抗議の声を上げる。

「みんなごめんねええええ!」
「可愛いからゆるーす!」
「以後気をつけろー!」
「はああああい!」

心配されてることをきちんと理解したお姫様がくるりと振り返ってクルー達に向かって声を上げる。怒ってはいるものの、別にお姫様に対してどうにかしようという気は毛頭ない彼らはお姫様の謝罪をすぐに受け入れた。そんなクルー達にチョロすぎだろうとマルコが呆れた視線を向けたが、すぐに自分も大概かと肩を竦めた。

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