ねえねえ、おやじい!

「おやじいいいい!」
「グララララ!どうしたァ?」
「かぜがつよいからそとであそぶなってまるこがいうの!ひま!」
「そりゃァ、今日くれェ風が強かったらお前は飛ばされちまうからなァ!グララララ!」

パタパタと軽い足音を立てて部屋の扉をとんとんと叩く犯人はこの船の小さなお姫様。

豪快に笑った船長は傍らにいたナースに指示を出して扉を開けさせる。少しだけ開いた扉の隙間からするりと入ってきたお姫様こと名前はまっすぐに部屋の主の元へと駆け寄ってぴょこぴょこと飛び跳ねる。

どうやら外の天気が荒れているようで、名前はマルコから今日は絶対外に出るなと釘を刺されてしまったらしい。

「あらあら、それでオヤジ様の所へ?」
「うん!あ、あけてくれてありがと!」
「ふふ、いいのよ。それよりオヤジ様?あれほどダメだと言ったのにまたお酒飲みましたね?」

自身の膝の上によじ登ろうとしていた名前を片手でつまみ上げて自分の肩の上に乗せて満足そうに笑っていた船長だったが、ナースの一際冷えた声にギクリと肩を揺らす。

「おやじい、おさけだめなの?」
「そうなの。体に悪いからダメよっていつも言ってるのにオヤジ様ったらお構い無しに飲んじゃうんだもの」
「おやじいからだいたいの…?」

ナースのお姉ちゃんが怒っていること、大好きなおやじいがお酒を飲んじゃいけないのに飲んでること。そして、大好きなおやじいが体を悪くしていること。それを会話から理解したらしい名前が不安げに瞳を揺らす。

「おやじいおさけだめ!おなかいたくなっちゃうよ!」
「グララララ!まさか末っ子に説教される日が来るとはなァ!」

食べたり飲んだりすることと、体の調子が悪くなることがイコール腹痛だと思い込んでいる名前が両手を握りしめて胸の前で構える。

ぷんぷん、と言う言葉が似合うようなその表情に船長が肩を揺らして笑う。

「お前にそう言われちゃァ、今日は飲む訳にいかねえなァ!」
「今日と言わずに明日も明後日も飲まないでいて頂きたいものですけどね」
「酒は飲みてェ時に飲むモンだからなァ。飲まねェ方が俺にとっては体に悪ィ!」

肩の上に乗る小さな名前の頭を指先でぐりぐりと撫でた船長が目を細めて優しく笑う。素直に今日はお酒を飲まないと言い切った船長にナースが呆れたように肩を竦める。

どうやらこの船のお姫様にメロメロなのは四皇の白ひげもクルー達と同じらしい。これから何かあった時は名前に説教してもらおうかしら、なんてナースが考えているとは思ってもいない船長は名前に笑いかける。

「今日は酒が飲めねェからなァ、暇つぶしに付き合ってくれる奴を探さなきゃいけねェな」
「!じゃあわたしといっしょにじゅーすのも!さっちがね!おいしいりんごみつけたっていってた!」

頭の上に乗せられた指先に小さな手を重ねた名前がぱあっと表情を輝かせる。

久しぶりに大好きなおやじいと一緒にいられることにウキウキしている名前は「じゅーす!じゅーすとってくる!まっててね!おやじい!」と一生懸命肩の上から降りようとする。

その様子にまた表情を綻ばせた船長はそっと肩から小さな体を降ろしてあげるのだった。

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