それは誰も知り得ない

サイレンの音が夜の街に響く。駆け付けた警察や救急隊員が息を飲んで、目の前で広がる非現実的な状況から目を逸らす。血だまりの中に沈む人だったもの。周辺に飛び散った血が、その空間だけを別世界として切り取っているようだった。

「映画みたいだね」
「やばくね?壁の血とか超リアル」
「リアルも何も本物だろ」

夜の街がいつもとは違う騒がしさに包まれて、人の動きに合わせて鉄の匂いが鼻につく。あっという間に事件はネットニュースになり、SNS上でも話題になっている。飛び交う憶測に馬鹿馬鹿しいと鼻で笑えば、同じように花宮が鼻で笑う。

「何の根拠も無いくだらねえニュースに踊らされて、バカみてぇだな」
「見てよ、この記事。犯人は人じゃない!ってさ」
「人じゃなきゃなんだよ。犬にでも喰われたのかよ」
「猫かもしんないじゃん」
「絶対どっちも違うよね?」

SNSで最も騒がれていたのは、この事件の犯人が人間では無いという意見。勿論、賛否両論はあったが何の根拠も無く推測の域を出ない。それでもその意見にここまで注目が集まったのは、事件現場があまりにも非現実的すぎたから。人間の手でここまで出来るものなのか、人間じゃなきゃ誰がやったのか。そんな中で、誰かが投稿した言葉に多くの人が食いついた。

『人間じゃなくて、妖怪とかだったらどうする?』

「妖怪、ねえ…」

そんなものいるわけないじゃない、と笑った私の後ろできらりと光る糸が揺れた。

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