「体育祭、どうだった?」
そう言って首を傾げたヒロくんに悪気はなかったんだろう。分かってる。分かってはいるけれど今の私にその話題はあまり宜しくない。ぶすりと不貞腐れたような表情に変わった私を見て零くんがクツクツと喉を鳴らして笑う。
「楽しくなかったのか?」
「え、そんな顔するくらい嫌だったの?」
自分では見えないけれど、多分物凄く機嫌の悪い顔をしているんだろう。私を見て困ったように笑う二人の視線から逃げるようにテーブルに頬を押し付けて突っ伏した。だから元々学校イベント嫌いなんだってば!
障害物競走なら特に目立つことも無いだろうし、3位とか4位とかまあまあの順位でゴールしとけば大丈夫でしょ、なんて思っていた私は盛大に裏切られた。今年の体育祭から種目の内容が見直しになって、障害物競走の配点やら難易度やらが高くなった、なんて体育委員でもない私は知る由もない。
何も知らずに参加した障害物競走で、私がそこそこの運動能力を持ち合わせていること、3位どころか1位になってしまったこと、そして何よりもの大問題は3年の先輩に良くも悪くも目をつけられたことだ。もう私明日から学校行くの辞める、と何度思ったか分からない。切実に無理。学校行きたくない。
「目付けられるようなことしたのか?」
「私は何もしてないけど3年の先輩がやらかした」
「全然話が見えてこないんだけど…?」
「サッカー部?のイケメン?の男の先輩に絡まれて、それを見た女の先輩達が嫉妬に狂って私にダル絡みしてくる…」
「思ったより悲惨だな…」
「外面良くしようとちょっと張り切ったらこれか…」
はぁ…と私よりも大きなため息を吐いて頭を抱えてしまった二人にフォークを咥えたまま首を傾げる。このりんごのケーキ美味しいよ。前回のオレンジより私こっちの方が好き。あ、違う?そういうことじゃなくて?
キョトンとして首を傾げる私に二人が本人がこの調子だもんな、だとか鈍いんだか鋭いんだか分からないな、だとか話しているけれど何を言っているか分からないので私は口を挟みません。
「ますたぁーこれ美味しいよ」
「そりゃよかった。余ったリンゴあるから食っていきな」
「やった!ありがとう!」
カウンターで本を読むマスターに美味しいよ、と声をかければ本から私へ視線を移してふわりと優しい顔で笑う。冷蔵庫から小さいお皿に入ったリンゴを渡されてご機嫌でフォークを刺してしゃくりとリンゴをかじる。リンゴケーキも美味しいけどリンゴも美味い。
「咲桜ちゃん」
「んぐ、ふぁい」
「何かあったらちゃんと言うんだよ」
「ん?何かって?」
「その男然り絡んでくる女然りだ。何か変なことがあったら隠さずに言えってこと」
「ああ、そういう。大丈夫だよ。何も無いって」
どこから来るんだその自信は…と眉間を抑える零くんにどうしたの?具合悪いの?と頭を撫でれば何でもないよと逆に頭を撫でられる。零くん髪の毛ふわふわサラサラだねすごいね。なんのシャンプー使ってんの?