心配そうに眉を下げる猫目の彼から逃げるように視線を泳がせて、それからそっと俯いた。
や、やってしまった。いやだってムカついちゃったんだもん。しょうがないじゃん。でもこんなイケメン二人に引かれてるかもしれないと思ったらちょっぴり心は痛い。今日は厄日だなあ。家帰ったらちょっと高めのバラの入浴剤使っちゃおうかな。
現実逃避をするように意識を明後日に飛ばしていれば、猫目の彼がふわりと笑う。
「元気そうで良かった」
「ぅ、ぇ…あ、おかげ、さまで…?」
「はは、俺たち何もしてないよ」
なあ、ゼロ?と隣に立っていた金髪の彼に笑顔を向けた猫目の彼をぽかんと見てしまう。私の表情を見てクツクツと喉を鳴らして笑う二人は何だか楽しそうだ。
「思ってたより大丈夫そうで安心したよ」
「怖いとかよりムカつく、の方が勝ちました」
「強かだな」
「泣き寝入りは嫌だったので」
痴漢に遭遇した女性の多くは、また被害に遭ったらどうしようと考えて恐怖を感じたり、電車に乗ることを避けたがるらしい。まだ高校生の幼い私が、これから先一生恐怖と戦わなければならなくなるかもしれない可能性を彼らは危惧してくれていた。ホッとしたように笑う二人に頭を下げてお礼を告げる。
自分が安全だと分かったからこその、あの態度とあの言葉だった。実際電車の中で、痴漢に遭ってる真っ最中に犯人相手に啖呵を切れるほど私の肝は座ってない。怖くて、気持ち悪くて、指先を動かすことすら出来なくてただ震えて怯えるだけだった。二人が助けてくれなければ私はきっとあの場で恐怖に震えることしか出来なかった。
「だから、助けてくれてありがとうございました」
「いーえ、どういたしまして」
「当然のことをしただけだから気にしなくていい」
もう一度、真っ直ぐ彼らを見つめてお礼を言う。深く下げた頭をぽんぽんと二度撫でられて、そっと顔を上げる。金髪の彼の綺麗な青い瞳と視線が交わって、改めて見つめた彼の顔立ちの良さにぽろりと言葉が零れ落ちた。…わたし、いま何て言った?
「ぷ、あっははは!だってよ、ゼロ!良かったな!」
「うるさい。笑いすぎだろ」
「いや、あの、ごめんなさい。ほんと今のは完全に無意識で、」
少し赤くなった耳と、口元を抑えるように動く手。楽しそうに笑う猫目の彼に対して、金髪の彼はじとりと恨めし気に私を見る。いやもう、ほんとにごめんなさい。元々綺麗な顔してるなとは思っていたけど、まさかそれをぽろっと言ってしまうなんて思ってなかった。助けて貰って安心して、どれだけ気が緩んでいるんだろうか。