お前がいないと楽しくない

始まりは入学して最初の体育の授業。久しぶりのバレーボールにテンションが上がってしまったのが運の尽き。「お前レシーブ上手いな!?」と声を上げた西谷に経験者だとバレてしまった日から、飽きもせずに毎日のようにマネージャーをやってくれと勧誘を受けた。

それが次第にバレー部総出での勧誘に変わり、根負けした雛はバレー部に入部。「今更なんだけど…本当にいいの?」と心配そうに雛の顔を見つめる清水に「まあ…アイツらが、絶対楽しませてやるって言ってくれたので」と雛が嬉しそうに笑う。つられるように清水も笑うから結果的にマネージャー2人が笑い合う絵面が完成し、(マネージャーがいるって、いいなあ〜〜!!!)と烏野の士気が爆上がりする。

縁下達が部活に来なくなった時は「楽しませてくれるって、言ったじゃん」と引き止められなかった事を悔やむ。戻ってきてくれた時には涙を浮かべながら「やくそく、やぶられるかとおもったよ、ばか」と嬉しそうに微笑むから、縁下達の心にダイレクトアタック。この一件でまた更に皆の絆が深まる。

西谷が東峰に掴みかかった時は、必死に止めようとしたけれど勢い余った西谷に「試合に出てねぇお前に何が分かんだよ!!!」と怒鳴られる。「〜〜ッ、分かんないから聞いてんじゃん!!!でも、ッでも今は全然楽しくないよ!!!」と雛も声を荒げてしまい、結果的に大喧嘩に発展。それからは、話もしないし顔も合わせない。

そんなことをしている間に日向達が入部してきて、キラキラと楽しそうにバレーをする西谷の姿に(私は楽しくないままなのに、何でアンタはそんなに楽しそうなのよ)と、どんどん良くない方に考えてしまい苦しくなる。(絶対、楽しませてくれるんじゃなかったの)と、限界が来てしまい体育館を飛び出す雛。

雛の入部の経緯も理由も、全部を知ってるバレー部の3年達は追いかけられない。涙を浮かべて、歯を食いしばって体育館を飛び出していった雛を追いかけられるのは西谷だけなのに、眉間に皺を寄せて苦しそうな顔をするだけで西谷は追いかけない。そんな姿に慌てた様子で縁下が代わりに追いかけると、膝を抱えて座り込んだ雛が「西谷は、絶対嘘つかないって信じてたのに、」と、ぽろぽろ泣き出すから、一度雛を泣かせている縁下は何も言えずに唇を噛み締める。

次の日になり、「昨日はすみませんでした」と何てことない様な顔で部活に来た雛に3年は当然気にしなくていいよ、としか言えなくて。東峰の復帰のきっかけになった試合の時には、皆が喜んでる姿を見て(やっぱり試合に出てない私には分からないんだ)と思ってしまい、ぽろぽろと涙が零れる。自分でも泣いてることに気付いていなかった雛は菅原に指摘されて初めて自分が泣いていることに気が付く。

反射的に背を向けて体育館を出ようとした雛の腕を掴んだのは西谷。真っ直ぐに自分を見つめてくる西谷にぼろぼろと涙を零しながら「はなして…!なによ、ひとりだけ楽しそうな顔して…!絶対楽しませるって、いったじゃん!うそつき!」と声を荒げて泣きじゃくる。勢いよく振り払った腕がばちりと音を立てるから驚いて一瞬言葉に詰まるけれど、そんな事を気にしてる余裕は雛には無い。

「もう、やめる」と言おうとした瞬間に目の前で西谷が膝をついて頭を下げる。所謂、土下座というやつだ。「悪かった!!試合に出てようが、出てなかろうが、勝てば嬉しいし負ければ悔しいに決まってる!!もう二度と、お前を泣かせねえし、もう二度と楽しくないなんて言わせねぇ!!」と、そう言って謝る姿にやめてよ、そんな事しないで、と雛が必死に西谷を起こそうとする。

そんな雛の言葉を遮って西谷は再び叫ぶ。がばりと勢いよく顔を上げて「だから、辞めるなんて言うな。お前がいねぇと、楽しくねえ」と、真っ直ぐに言うから、その瞬間にぶわりと胸が熱くなって涙が零れる。西谷の言葉に「つぎは、ないから」と、顔を覆って泣く雛の頭をぐしゃぐしゃと掻き回して「任せろ!!」と笑う西谷。そんな様子に我慢できなかった2年が駆け寄っていく。皆でもみくちゃになって泣きながら笑う姿にイマイチ状況が分からずに1年は首を傾げているし、全部知ってる3年はつられて泣いてる。

「いや〜〜〜!イイもん見た!青春だな〜〜!」ときゃっきゃっしてはしゃぐ嶋田達の前で大分恥ずかしいことをしたのでは???と気付いてしまった雛の頬がじわじわと熱くなる。「ご迷惑をおかけしました…」と、しょんぼり頭を下げる雛に3年達は「仲直りできて良かったな」と頭を撫でる。「でも、もう辞めるなんて思わないでくれよ〜?俺、ぶっちゃけマジで泣きそうだったんだからな」と菅原に優しくデコピンをされて「うっ…もう言わないです…」と、またしょんぼりしてしまう。けれど「ま、あの西谷が二度と言わせねぇって言ってたし、大丈夫か」と笑った菅原にぽんぽんと再び頭を撫でられる。

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