後8cm

「キャー!黄瀬くーん!」
「どーもっス」

廊下に響き渡る声にニコリと笑って手を振る。それだけでかっこいいだの何だのと騒ぐ女子生徒に黄瀬は心の中でため息をついた。モデルを始めて、人気が出始めて、今のように絡まれることが増えた事に最初こそ嬉しいと思ったが今では煩くてしょうがない。

「ねえ、邪魔なんだけど」

どう切り抜けて教室に戻ろうかと思っていた黄瀬の耳に入ったのは綺麗なソプラノの声。声の方向に黄瀬はもちろん、その場の女子生徒も顔を向ける。心底面倒そうな顔をして黄瀬を見る一人の女子生徒になぜか黄瀬は目が離せなかった。

「聞いてる?邪魔なんだけど」
「…あ、あぁ。そうっスよね、ごめんね?」
「きもちわる」

ポカンとしているのは黄瀬だけではなく先程まで騒いでいた女子生徒も同じのようで、その場にいた全員が彼女を見つめてポカンとしていた。真っ先に我に返った黄瀬がニコリと謝ると彼女はその顔を見て眉間にシワを寄せ、モデルに対してあるまじき言葉を呟き何事も無かったかのように黄瀬の横を通って教室に入って行った。

「…は、?」
「何あれ、感じわるーい!」
「黄瀬くんに気持ち悪いとかひどくない?」

唖然とする黄瀬を他所に、先程の彼女への文句を口々に言い合う女子生徒に達を散らす様に予鈴がなる。黄瀬くんまたね!と慌てて教室に戻る女子生徒に何とか笑顔を作り手を振って見送った後、黄瀬も自分の教室に戻ればクラスメイトには苦笑いで迎えられる。

「よぉ、今日も人気者だな」
「まあ、モデルなんで」
「うわぁ…イケメンうぜぇ…」
「悪口になってないっスよ」

教室に入り、茶化してくる男子生徒に笑って返事を返し席に座る。窓の方を眺めてさっきの女子は何だったのかと思った時、ふと彼女が入った教室がここだったことを思い出して黄瀬は思わず立ち上がった。ガタリと椅子が音を立て、クラスの視線が黄瀬に集まる。そんな中一人だけ、全くこちらに興味を示さずに読書をする女子生徒の横顔に黄瀬は思わず指を指して叫んだ。

2017/1/10 執筆

ALICE+