後7cm

「じゃあ、二人一組な」

その一言にクラスがざわざわと賑わう。当然のように自分の周りに女子生徒が集まってくる、と思っていた黄瀬の予想は大きく外れ女子は女子同士、男子は男子同士でペアを組み始める。不思議そうな顔をした黄瀬に気が付いたのか隣の席の女子生徒が実はね、と話し始めた。話を聞くと、黄瀬くんはみんなのもの条約なるものがクラスで出来たらしい。二人一組で誰かが黄瀬くんを独り占めしないように、との事だそうだ。

「おーい、黄瀬。お前ぼっちだぞ」
「えっ!?まじっスか!?」

女子生徒達の謎の条約について教えてくれた子がじゃあ、とペアの子のところへ小走りで駆けて行くのを見送って自身もペアを作ろうかと男子が集まる方を見ると、既にペアは完成していて黄瀬一人があぶれていた。そこで漸く男女とも奇数のこのクラスでは必然的に二人一組だと男女ペアの班が出来てしまうのだと気付いた黄瀬は、恐る恐る女子の方を見て頭を抱えずにはいられなかった。

「まじっスか…」
「はぁ…最悪…」

予想通り、と言うかなんと言うか。女子の中で一人あぶれていたのは、女子の間であまり評判の宜しくない彩だった。無意識に黄瀬の口から漏れた言葉は思っていたよりも大きく、黄瀬を見て眉間にシワを寄せて不機嫌を隠すことなく大きな溜息を吐いた彩の言葉も同様にざわめく教室の中で響き渡る。

「あー、えっと…藍川さん?」
「………」
「えっ、と…よろしくっス」
「………」

ペア同士で座って作業を始めろ、と言う教師の指示にガタガタと全員が席につき話し始める。そんな中、自身の席から全く動く気がない彩に小さくため息を吐いて黄瀬は彩の隣の席に腰掛けた。相変わらず片肘を付いて眉間にシワを寄せる彩の名前を呼び挨拶をするものの完全に無視を決め込む姿にさすがの黄瀬もムカついたようで、むっとした顔をする。

「聞いてるんスか?」
「はぁ…ほんっとうるさい」
「な、っ!」
「この距離で聞こえてないわけないでしょ。バカなんじゃない?」

ぐっと彩の肩に手を置いて、そっぽを向く彩を自身の方に向ける。黄瀬と目が合い、大袈裟にため息をついた彩はバカにするように鼻で笑った。言い返そうと息を吸い込んだ黄瀬を止めるように授業終了のチャイムが鳴った。

「良いこと、教えてあげようか」
「は?」
「私、アンタのこと大嫌いなの」
「…知ってるっスよ」

授業終了の挨拶をして、席に戻ろうとする黄瀬を彩の声が引き止める。不機嫌を隠すこともなくキッと彩を睨みつけると彩は嫌味なほどニッコリと笑った。彩の口から発せられた言葉に冷たく返し、黄瀬はイライラした気持ちを抑えるように机に伏せた。

2017/1/10 執筆

ALICE+