喧嘩人形の十数日間/ひとつ近づく



「悪ィな、ちょっと一服してて。ほら。紅茶でよかったか?」

そう言われて、噴水の向こう側に喫煙所があることを思い出す雪乃。静雄は雪乃の隣に腰を降ろすと、熱いペットボトルの紅茶を手渡した。

「紅茶大好きです。ありがとうございます」

そう言って紅茶を受け取ると、静雄は自身も手に持った缶コーヒーを一口飲み、口を開く。

「ユキって……、なんて言ったらいいのかわかんねェけど、なんだ……。生まれつきなのか?あの、チカラ」

唐突に聞かれて、目を開く雪乃。新羅たちはあまり追及してこなかったので油断していた、と『言い訳』を考えていなかった自分を呪いそうになる。少し考えた後、口を開こうとしたら、先に静雄が口を開いた。

「悪ィ、いきなりこんな事聞かれたくねェよな。オレも一応こんなんだから、少し気になってよ」

申し訳なさそうに街の空を見上げる静雄に、雪乃は驚いて大きく手を振った。

「違います、なんて答えたらいいかわからなかったんです。わたしもあんまりこういうこと話せる人が居なかったですから……」



           ♂♀
  


「わたしのコレは生まれつきなんです。少しだけ怪力が出せるんですけど、そうしたら体力が切れてよく倒れるんです」

「そうだったのか……。オレはアレだ。特異体質みたいなヤツで、ちっさいころから筋肉の制御が効かねェとかなんとか…。それを繰り返してる内に身体自体が強くなってるらしい。新羅が言うにはな」

「そうなんですか?なんか凄いです」

「でもつい最近まで制御不能みてえな感じでチカラの加減ができてなかったからな」

「そうなんですか……」

「……」

「………」

「……」

「…………」

「なぁ、敬語、使わなくてもいいんじゃねェか?」

「え、でも……」

「あんま好きじゃねえんだよな」

「う……それなら、わかった……?」

「なんで疑問系なんだよ」

「あははは」

「ははっ」




その会話の様は、一組の男女のデート風景のようだったという。






           ♂♀
  


その少女は生まれた時から両親が居なかった。物心ついたときから一ホーム≠ニいう施設で暮らしていた。ホームの人たちは優しく、少女は暮らすのに不自由はないように見えた。いじめられたこともあったが、少女の人柄と姉的存在の少女おかげで生活は円滑に進んでいた。ただ、彼女の記憶は徐々に彼女を蝕んでいった。



           ♂♀



少女の記憶には、いくつかの自分の特徴≠ェ刻まれていた。少女自身が何もしなくても他人から愛される≠アと。一時的に人以上の力を出せること。
そして、もう一つの呪い=B

彼女は一時的にその人外の能力の記憶で塞ぎ込んだ。他人を寄せ付けず、自分が離れることで自分とホームの人間を守ろうとしていた。しかし、彼女の姉的存在がそれでは誰も護れないことを教えてくれた。彼女は塞ぎ込むのをやめ、前を向こうと必死になった。姉が教えてくれたのが綺麗言だろうと、それが少女の真実になった。だが、それでは少女の3つめの呪いは消えない。彼女の最後の呪いは
関わった者に非日常=\――不幸≠押し付けるというものだった。









           第5話end...
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