喧嘩人形の十数日間/接触
さて、最近は静雄との出会いに脈絡が無くなってきている。特に会う予定も無かったので、話が見つからずに例の如く公園のベンチに沈黙が舞い降りる。いつまで経ってもワンパターンだと思い、雪乃は手に持った午後○ィーに口をつける。そして、先に口を開いたのは既に恒例になっているのか静雄だった。
「ユキはこんなトコで何してたんだ?」
一瞬説明に詰まったが、甘い紅茶を飲み下すと口を開いた。
「ちょっと、知り合いと話してた……の」
「そうか」
ぎこちなくため口で話す雪乃。嘘じゃないよね、と自分に確認してもう一度紅茶を飲む。ちょっとした罪悪感を感じながら紅茶を飲み干すと、静雄が横から声を掛けてきた。
「悪かったな、驚いたろ……。ノミ蟲の姿が見えたもんでついな」
頭を掻きながら謝罪する静雄。
「そんな、謝る要素が見つからないよ」
雪乃は両手を左右に振ると、静雄が堪らずに小さく噴出した。
「プッ、ははは……」
いきなり笑い出した静雄にきょとんとした視線を向ける雪乃に、静雄は笑いながら手のひらをひらひらと振る。
「いや、悪ィ。前とパターンがずっと一緒で可笑しくなっちまった……」
あぁ確かに途中からデジャヴだった、と心の中で納得すると、雪乃は静雄の楽しそうに様子に雪乃の頬は大幅に緩んでいた。その表情を見た途端、静雄の方から笑い声が消えた。
「え?」
何かまずかったかと硬直する雪乃の頭に、そっと静雄の手が置かれた。
「ユキは笑ってると可愛いな」
「っっっ!!!!!」
そんな台詞を恥ずかしげも無く吐く静雄。雪乃は急激に赤く、熱くなるのを感じた。静雄はベンチから立ち上がると、公園の出口を指して言った。
「新羅んち帰るんだろ?送ってくぜ」
♂♀
「なんだか最近静雄って精金良玉になったと思わないかい?」
雪乃が既に自室となった部屋に戻った後、セルティとふたりっきりになった新羅はソファの隣に座ったセルティにそう言った。
『精金良玉って……。そうか?前とそう変わらないと思うが……』
と、文を打ち込んだPDAの画面を新羅に見せる。しかし新羅は、やれやれといったように軽く方を竦めて見せる。
「だって、わざわざ雪乃ちゃんをほとんど毎日ウチまで送っていくんだよ?あんなに無味恬淡なヤツだったのに」
セルティは少し考えた後、考え直したように頷いた。
『確かに……数回会っただけであそこまで世話を焼くのは珍しいな』
「でしょ?もしかしたら、静雄は彼女自体に何かを感じ取っているのかも……」
『何かってなんだ?』
視線を雪乃の部屋に向けた新羅の目の前にPDAを振りかざすが、結局その晩、セルティはその件に関しては真面目に新羅に相手にしてもらえなかった。
♂♀
電源を落としたパソコンを鞄に仕舞い、ベッドに横になる雪乃。――駄目だなぁ、わたし。この生活が心地よくなってきてる。――わたしが何かを――誰かを愛する資格なんて無いのにしかもカタキだって思わないといけない人を――……。
――……大体、何でわたしはあの人を『カタキ』だって思ってきたのかな……。それは……わたしの幸せな『日常』を壊したから……。あぁ、何て不条理な押し付けなんだろう。わたしみたいな『生物』、本来なら前向きに考えるか、自己中心的に考えて他人に『寄生』するくらいしか上手く生きれないのに……。ヘンなところで甘やかしていらないところで自主規制してさ……。そのどっちにもなれない…。出来損ないだ。生きてる資格なんてないよ……。他人に迷惑かけるだけかけて……。今のこの生活だって、いつ壊れるかわからないのに……。わたしは新羅さんやセルティさんの優しさに甘えてるだけなんだ。
「〜〜〜〜っ、だぁーーーーーーー!!」
――もう駄目だ!すぐ悲観的になって、事実だから仕方ないけど、それでももしかしたら、なんて自分で考えるべきじゃないんだよ…。……でも、もしも本当に、許されるのなら……。
「護りたいのかもしれない……」
――まだ、きちんと纏まってないけど、。この、自分に優しい生活を、人を、……『カタキ』だと思ったあの人を……。じゃあ、もしも護れて、わたしが理想する生活の人たちに許されたなら……。――存在を望んでくれるなら……今度こそ、本当に、自分を甘やかしてみようかな。精一杯、前向きに考えて……。
第7話end...