首なしライダー、出会う/非日常のはじまりはじまり



夕方の街中。サラリーマンから学生まで多くの人たちが行き交う繁華街。その中に、フードにファーと猫耳を模した布が付いている上着にキュロットスカートを穿いた、来良学園の女生徒がひとり歩いている。顔はどちらかというと童顔で、起伏の無い身体がさらに少女の外観年齢を下げている。そんな少女は、道路のデコボコした表面を見ながら億劫そうに溜息を吐いた。

「……はぁ」

アパートの部屋は全焼した上に、取り敢えず着替えと歯ブラシなどの日用品を買ったが財布の中身が殆ど無くなってしまったのだ。通学用に使っている大き目の肩掛け鞄の中から携帯音楽プレーヤーを取り出す。イヤホンを耳にはめ、音楽を再生するとプレーヤーをポケットに突っ込んだ。
フードにファーと猫耳を模した布が付いている上着に、キュロットスカートを穿いた女の子――#NAME1##雪乃は、授業中に教師に呼び出されたと思えば、自らが住んでいるアパートの部屋が全焼したという事が伝えられた。少しの間警察に事情聴取された後解放されて、買い出しの為に歩いている。開放されたのは午後の4時くらいだったが、来良学園は私服OKのためブレザーとスカートを普通の服と変えただけで社会人に紛れて街中を気軽に歩ける。――肝心の発火原因は、抜けかけのプラグから、近くの絨毯に火花が散ったことらしい。それを聞かされるとすぐに警察は解放してくれた。
――今日は漫画喫茶にでも泊まろうかな。そう考えながら歩いていると、いつの間にか街の建物には明かりが灯り始めていた。冬ということもあり、辺りは既に暗くなってしまっている。急がなければ、いい部屋が埋まってしまう。そう思い、よく通っている漫画喫茶に向かうべく、近道の暗く狭い路地に入る。広がる暗闇に、多少の恐怖を感じながら早足で漫画喫茶に向かう雪乃。曲がり角に差し掛かり、曲がった先には―――

「動くんじゃねぇゾ!」

「っっっ!?」

首を腕で締め上げられ、喉元にひやりとした鋭利なものが突きつけられるのが分かった。路地の角を曲がると同時に、素顔を隠すようにサングラスとマスクを着用した男が自分に掴みかかって来たらしい。目を正面に向けると、目の前には黒いライダースーツに変わった形をしたフルフェイスメットを被った人物が立っていた。見覚えがあると思って記憶を探ると、目の前の人物は巷で騒がれている『首なしライダー』のようだ。どうやらこの変なオッサンから首なしライダーに向けての人質として捕まったらしい。
都市伝説として名高い首なしライダーは、漆黒で艶の無い自身の身の丈の3倍はあるような大振りの鎌を持っているが、少女が人質に取られたことで動きが止まる。雪乃にナイフを突きつけた男は下卑た笑いを浮かべ路地の出口に後ずさりを始める。無音のまま男の行動を見守る首なしライダーと、男を交互に見る雪乃。すると、いきなり男の動きが止まるのを感じた。
男はナイフを持った手を小刻みに震わせている。見ると、男の腕には、壁から伸びている影のように黒い布状のものが巻きついていて腕が動かない状態になっていた。男は焦った表情を浮かべると、大きく舌打ちをしながら雪乃を正面に突き飛ばした。

「わっ!」

突き飛ばされた雪乃は、首なしライダーにより受け止められるが、男はやけくそになりながら咆哮を上げ、デタラメにナイフで切りかかって来た。そのデタラメな軌道により、一太刀は首なしライダーのヘルメットを弾き飛ばし、一太刀は雪乃の手首を切裂く。雪乃は激痛に苛まれ、血が流れる腕を抱えてしゃがみ込んだ。が、俯いた顔は男の悲鳴ににた声によりすぐに上がることになる。

「な、なっ――化け物っっ!!」

表情を驚愕に支配された男がやっと搾り出した言葉は、とても大人が放ったとは思えない非現実的な言葉だったが、目の前の首なしライダーを表すには適切な言葉だった。
ヘルメットを飛ばされた首なしライダーは、その名の通り首が無かった=B
目を丸くする雪乃を余所に、首なしライダーは鎌を構えて変質者に近づいていく。

「ひっ、、いいいぃいぃぃぃぃぃぃいい」

首の無い姿に恐れを成した男は、首なしライダーの前に小さな白い封筒を放り、悲鳴を上げながら逃げ出して行った。首なしライダーはその男を追うことも無く、封筒を拾い、先程飛ばされたヘルメットを再び被ると雪乃のほうへ歩みを向ける。封筒を懐に仕舞い、代わりにPDAを取り出し文字を打ち込む首なしライダー。雪乃に向けられたそこには、『大丈夫?』と書かれていた。
都市伝説の『首なしライダー』。それは街の人々が暇つぶしの為に作り上げた虚構ではなく、実在した。しかも、普通の人間のように他者の怪我を心配している。腕を押さえながら辛うじて頷く雪乃を見て、首なしライダーは雪乃の腕に視線を注ぐ。ナイフで切裂かれた腕は、思ったよりも傷が深く出血が激しかった。首なしライダーは再びPDAに文字を打ち込みながら、雪乃の正面に膝を付いてしゃがみ込む。

『少し痛いかもしれないけど、』

という文を向けると影で布状のものを作り出す首なしライダー。そしてそれを、腕の患部にきつく巻きつけた。

「―――っ」

苦虫を噛み潰したような顔をする雪乃に、首なしライダーは新たな文を打つ。

『これで多分、血は止まるから。今から知り合いの医者に連れて行っても大丈夫?』

その文を見て、雪乃は殆ど不信感や疑念を抱かずに頷いた。

「はい。……お願いします」

その後、雪乃は首なしライダーのものと思われるバイクの後ろに乗せられて、『知り合いの医者』の所に向かうことになった。


   ♂♀


雪乃は、先ほどの布と同じく影で作られたジェットヘルメットを被り、首なしライダーの腰にしがみついている。このバイクに乗る前に聞かれた、首なしライダーの言葉を思い出す。

『私が怖くないのか?』

雪乃は首を横に振り、

「少し驚いたけど、怖いって程でもないです」

その言葉を聞いたとき、首なしライダー――セルティ・ストゥルルソンは心なしか、安心したような仕草をしたように見えた。
雪乃は思う。――この人は、もしかしたらわたしよりも人に近い心を持ってるのかもしれない。わたしの能力のこともあるけど、セルティさんは……伝説の首なしライダーは、優しい人なのかのしれない。そして、それと同時に自分と同じ存在なのかもしれないと――この人にならわたしたちの呪縛は届かないかもしれないと、そう、思い始めていた。




   第1話end...
TOP