あとで確認したところ、急いで体育館に入ってきた方はバレー部顧問の武田先生というらしい。バレー経験が何にも関わらず、いろいろお世話になっているのだと潔子先輩が教えてくれた。なんとも優しそうな先生で、場の雰囲気がほんわかする。
そんな武田先生が今まで体育館に顔を出さなかったのは、他の高校と練習試合を組んでいたためだった。
そして今回の練習試合を組むためには条件があった。それは影山君をセッターとしてフルで出すこと。それを聞いたスガさんの表情が切なくて。今までやってきたポジションを新人にとられることの辛さは計り知れないだろう。
私は今まで運動部に所属したことがないから、スポーツ選手の気持ちは分からない。私が知ることができる他人の気持ちなんてたかが知れている。でもきっととても苦しいんじゃないかな。
それでも、まだ菅原先輩の目は死んでなくて。
その日の練習が終わって、菅原先輩が先に帰路に着いた時だった。
『菅原先輩ーー!』
「え?苗字」
急いで先輩の背中を追って、ようやく追いついた。
『ハァ、ハァ、菅原先輩は…、ハァ』
「ま、まずは落ち着け、な?」
『っありがとうございます…』
久しぶりの全力疾走に体は応えてくれなかった。汗はダラダラと流れ、日頃の運動不足が悔やまれた。何度か深呼吸をして、落ち着いてきた頃、ようやく話を始めた。
『私、今度の練習試合、すっごく楽しみで、…それで、えっとー。』
続きが思いつかない。まだ話は纏まっていなかったのに話し始めてしまった。
『だからこそ、菅原先輩のバレーを見てみたかったです』
「!」
『ほんの少ししか見ていないけど、菅原先輩のバレーは誠実で、皆に信頼されていて。影山君にはない良さを持っているなって思ったんです。…あぁ、生意気な事言ってすみません』
言っていることはハチャメチャかもしれない。こういう時こそ、そっとしていて欲しい人もいる。ただ、私の想いだけは届いて欲しかった。
「ありがとな、なんかスッキリした」
眩しく微笑んだ菅原先輩は私の頭にポンっと手を乗せた。そしてわしゃわしゃと撫でてくれる。
『菅原先輩…?』
「あぁ、何やってんだ、俺!その、ごめんな急に」
なかなか撫でるのをやめない菅原先輩に視線を向けると、慌てた様子で撫でるのをやめた。
ちょっと気持ちよかった、なんて言ったら引かれそうだったので、敢えて心の中に閉じ込めておくことにした。