ひよこが駆け巡る!





練習試合の場所へ向かうバスの中。行き先はもちろん、練習試合会場の青城高校。武田先生がついこの間練習試合を組んできてくれたかと思えば、相手は県内ベスト4の高校だった。さっそくの高レベルに、私が試合に出るわけではないのにとても緊張していた。
というか、私よりももっと緊張している人がいた。

『翔陽君、大丈夫?』
「…え?うん……大丈夫」

試合前だというのに気力を失い、目の下に隈がある翔陽君。バスの中で一人だけ明らかにいつもとはテンションが違う。目に見えて反応が鈍い。いつもはみんなが引っ張られそうなくらい元気な翔陽君の元気のなさに、心配せずにはいられない。


これは想定外の出来事だ。いつもパワフルな翔陽君が、今日の練習試合でもパーンとスパイクを決める姿を想像していたけれど、これは正反対の出来になりそう。なんとか元の翔陽君に戻さないと…!


『翔陽くーん、リラックスだよリラックスー』
「お、おう…!」

笑顔で彼の手を握りながら揺らす。すると心なしか顔色が戻った気がする。

「(いいぞ…苗字!)そうだぞ、日向。お前にとっては練習試合は初めてかもしんないけど、そんなに気負う必要はないぞ」
「…オッス!」


菅原先輩も必死に翔陽君を宥める。このままいい方向に向かっていくように思われた。

「おい、日向ポッキーやるぞ!ポ…!?お前何その顔!?」
「え?あっちょっと昨日眠れなくて…」

でも単に言葉をかけるだけじゃダメだったようで。話している途中で、顔色が一気に悪くなりとうとう話すこともできなくなってしまった。

そして、なんと…!酔ってしまった翔陽君はとうとう田中先輩のジャージの上に吐いてしまった。

***

「すみません、田中さんすみません」


バスを降りた田中先輩にさっそく謝る翔陽君を見ているだけで切ない。緊張しているのか、車酔いしたのかは、果たしてどちらもなのかもはや分からないけど、体調が万全ではないことは分かる。今日のコンディションは最悪だ。

翔陽君はそんなに試合慣れしていないらしいから、余計に変なことを考えてしまっているんだろう。役不足の私では彼を落ち着かせることはできない。


「ット、トイレ行ってきます…!」
「上の次は下か!忙しい奴だな!」
「今の日向じゃ迷子になりそうだから、誰か着いていってくれないか?」
『あ、私行きます!』
「だ、大丈夫!」


今の翔陽君ではフラフラしたまま、どこか違うところに行ってしまいそうなので、着いて行こうとしたけど、真っ赤な顔をして断られた。さすがにトイレにまで着いていくのは恥ずかしいよね。逆の立場でも恥ずかしいもん。

翔陽君、元気になって帰ってきておくれ…!

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