飛雄君の自主練習に付き合って暫く経つ。今は床におかれた対象物をめがけてボールをトスする練習をしているが、最近になって成功率が高まってきた。
この調子でいけば、完成する日も近い。
朝が来て、練習をして、練習が終わり、また朝が来ての繰り返しもいよいよ終わりだ。
「___さて、明日から再び東京遠征です。今回はまるっと1週間!長期合宿は春高予選前最初で最後です。」
武田先生がみんなの前に立って話し始める。それをじっと聞く。
「悔いの無い様、このチャンスを貪り尽くしましょう」
全員の士気が高まる。いよいよ今日から合宿だ。
前回、私は少し遅れて行ったけど、今回は初めて最初からみんなに同行する事になる。以前の冴子お姉さんの運転は荒々しく、かっこよかった。途中何度か命の危機を感じたが、無事に着いたから良しだ。
今は深夜0時。良い子は寝静まっている時間。かく言う私も、普段であればほとんどの確率で寝ている。現に今眠いです……。
はぁ〜と盛大に大きなため息をはくと、隣にいた月島君が話しかけてきた。
「深夜0時って言ったらお子様はもう寝る時間だもんね〜」
『月島くーん、眠い〜』
本当に眠くて、頭が正常に働かない。
「は、何やってんの?…ちょっとやめなよ」
『ん〜〜?』
なんだか人肌が恋しくて、つい月島君の背中に頭をグリグリしてしまった。
「寝ぼけてんの?」
『そうかも〜しれない』
頭が働かない限りやめられない。月島君の背中が丁度良い位置にあるのが悪い。
「何やってんだよ」
と、どこからか飛雄君の声が聞こえる。
『飛雄くーん、眠くて頭がどうにもならな…い…』
もうすぐ出発だというのに、これでは迷惑をかけてしまう。
「何がしたいんだよ」
『ギュー、してくれれば起きる〜』
小さい頃は眠いとき、よくお母さんに甘えていた。お姫様抱っこをしてもらって寝室まで運んでもらった。もうそんな歳でもないけど、人生であと一回ぐらいお姫様抱っこをしてもらいたい。
あ、それって結婚式でできるのかな。
『月島君が飛雄君をギューするの〜』
「言ってる事が支離滅裂なんだけど…」
未だに月島君にグリグリしながら、寝ぼけた事を言っている。すると、飛雄君が近づいてきて、頭を鷲掴みして、盛大にワシャワシャしてきた。
「起きろアホ」
『え、うわうわああ、痛い!何!』
「そろそろ出発するぞ、起きろ」
『…え!嘘!ごめん、半分寝てた』
お陰で目が覚めたが自分が何を言っていたかあまり覚えていない。ただ、迷惑をかけた気がする。
『ありがと、飛雄君目が覚めた!ごめん、…月島君、グリグリ痛かった?』
「……別に、ヒヨコ程度の力で痛いって思わない」
『良かった、大事な体だもんね。私の頭ドリルのせいで月島君の体壊しちゃったらどうしようって思っちゃった!』
「何、頭ドリルって」
『私の必殺技!!』
「…………」
『そんな哀れみの目で見ないで!』
月島君が痛い子を見る様な目で私を見てくる。確かに、言っていてこちらが恥ずかしい限りだ。一体私が何歳なのかも分からなくなってくる。
「おい、お前らそろそろ行くぞ〜」
『はい!』
澤村先輩の呼びかけが聞こえる。何はともあれ、東京遠征へ出発です!