ひよこが駆け巡る!





私達は今、練習前に武田先生の周りに集合している。

今、武田先生が持っているのは、春高予選のトーナメント表だ。

「明日の予選で2回勝てば10月の代表決定戦へ進出できます」

先生は、春高予選の説明をしてくれている。私は未だにその仕組みが分からないため、聞き逃しのないように聞く。

「この一次予選を突破した8校に、更に強豪8校を加えて、10月の代表決定戦となります」
「一次予選は2回しか試合できないんですか」

翔陽君の素朴な疑問に、私も興味がある。2回だけしか試合ができない、つまり2回勝てば代表決定戦に行けるという事だということは理解しているが、2回だけでいいのか。もちろん、その2回が決して生ぬるいものではない事は分かっている。

「俺たちはIH予選でベスト16まで行ってるから、今回の一次予選、一回戦は免除になるんだよ」
「フォオ!おれ達スゲーッ」

なるほど。インターハイの結果が今回の予選と繋がっているわけですね。前回の努力も無駄ではなかったわけだ。

「今の君たちなら必ず通過できます!!いつも通りやりましょう!!」
「っしゃああ!!」

武田先生の威勢の良い掛け声によって、部員全員が俄然やる気になった。これまでの練習通りにやれば、一次予選通過も夢ではない。


「いよよいよいよ、こ…公式戦すか…きっききんちょ、緊張してきた…」
「仁花ちゃんは初めての公式戦だもんね」

緊張で震える仁花ちゃんに優しく声をかける潔子先輩。あぁ、女神だ。

『私も最初の公式戦は緊張して仕方がなかったよ!』
「や、やっぱり、緊張する、よね」
『うん、緊張して夜寝れなかったんだぁ』

インターハイの時のことを思い出す。選手でもないのに異様に緊張した夜もあったなぁ。あれから随分時間が経った。私もきっと、精神的に強くなったはずだ。


「私には最後だ」

その一言がどれほど想いのあるものかは、私にはわからない。潔子先輩が過ごしてきた3年と、私がこれから過ごしていく3年は全く違うものだ。

たった一年。一年だけ一緒にできるバレー。

どれほど尊い時間なのか、全てが終わってから気づくのかな。終わってから、今まで見えなかったありがたみとか、嬉しさに気づくのかな。

それじゃあ遅い。

これから先の事を考えると自然に涙が溢れてくる。3年生のいない烏野なんて想像できない。本当は引退してほしくない。それはただのわがままでしかない。

「!!ゴメンゴメンゴメン、2人とも涙目にならないで」
「な…なってないっス!蚊が入っただけっス…!」
「蚊が!?」

蚊が入ったのなら仕方がない。じゃあそれは物理的な痛みによる涙というわけだ。

『私は目にまつ毛が入りました…!』

泣いてなんかない。これは涙じゃない。

…そうだ、汗だ。目から大量の汗が流れているのだ。

「まだいるから。だから大丈夫」

私は無性に潔子先輩に抱きつきたくなった。この優しさを、温もりを忘れたくない。いつまで経ってもこのメンバーでいたい。

そのためには、少しでも上に。……上に進まないと。

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