蛍君は誰に対しても態度を変えない人ではあるが、かといって特別愛想がいいというわけでもない。誰に対しても当たり障りのない対応をしている。交友関係は多いほうではないかもしれないけど、その分バレー部の部員とはなかなか密な関係を築き上げていると思う。
常にクレバー。冷静な蛍君は、バレーの時だけ熱くなる瞬間がある。今夢中になっているものはきっと「バレー」なんだろう。それを本人に言うときっと「勝手に決めないでくれる?」なんて返ってきそうだから言わないでおくが。
では、彼が他に夢中になっているものは何だろう。そういえば、彼は時間ができたら本を読んでいる。蛍君に用事があって彼の教室に行くと大抵は読書をしている。いつも持っているのは大きめの本ではなく、持ち運びが楽そうな文庫本だ。前々から何を読んでいるのか気になってはいたが、何せご丁寧にカバーがつけられているものだから、本のタイトルを見たことはない。蛍君はいつもどんな本を読んでいるんだろう。単純な疑問だった。
たまたま部活の連絡事項があった私は、今日も今日とて教室で読書をしていた蛍君の元に駆け寄った。どうやら教室にいつも一緒にいる山口君はいないようだ。
『蛍君、ちょっといい?』
私が声をかけると、読んでいた本にしおりを挟み、私の方に向いた。せっかく本を読んでいたところ邪魔して申し訳ないが、今日の部活の話なので許してほしい。
「なに?」
『何読んでたの?』
「別になんでもいいでしょ」
今日はいつにも増して塩対応かもしれない。ただどんな本を読んでいたか気になっただけなのに…。素直に教えてくれたっていいじゃないか。なんて抗議の声は声になることもなく、なんとか飲み込んだ。
『けっこうおもしろい本なの?』
「それをわざわざ話に来たの?」
質問を質問で返されてしまった。なんだか要件を早く言ってほしそうな様子だ。確かに私はこの話をしに来たわけではないが、雑談をすることくらい許してほしい。それに、蛍君に興味があるからこそこんな質問をするのだ。
『だって、…蛍君が好きなもの私も知りたいよ』
でも、教えたくないのに無理やり聞くのは違うよね。しつこく聞くのはやめて、さっそく本題に…と話題を変えようとした瞬間だった。
「…物好きにもほどがあるでしょ」
そういいながら目線を逸らす蛍君の耳が若干赤くなっている気がする。彼の事をもっと知りたいと思うのは、仲間だからというほかに、もっと特別な意味がある気がする。少しでも蛍君のことを詳しく知って、心ごともっとそばに行きたい。
『そうかな、いつもどんな曲聞いてるのかなとか結構気になってるよ?』
「………。
…ヒヨコが好きそうな本あるから、今度貸すけど」
やっぱり視線はあわないけど、大切なものの貸し借りができる関係って、特別な気がするのは私だけだろうか。
『ほんと?ありがとう!』
「明日持ってくる」
『ありがとう!』
「汚さないでよ」
『もちろん』
……月島は基本的に自分のものを誰かに貸すということはしないが、相手が自分の気になる女の子だったからこそ貸す気になったということは、当の本人には知る由もないことだった。
愛奈様リクエスト
月島 ツンツンデレな月島