正直な話、緊張していてあまり寝られなかった。とはいえ、目覚めは最高だった。普段は二度寝も考えてしまう私だが、今日は目が覚めた後すぐに布団から出て、試合に行く支度をした。先に起きていたお母さんに行ってきますと声をかけて家を出ると空はこれまでにないくらい快晴だった。
今日は天気もいいし、絶好の大会日和。
学校の校門前に着くとまだ誰も居なくて、一番乗りかなぁ、って思っていたら後ろからもの凄い足音が聞こえてきた。焦って振り向くと、もの凄く怖い形相で走ってきた影山君。それに追いつこうと必死に走ってきた翔陽君がいた。
結局2人には校門に入る直前で越されて、3番乗りになってしまった。
「これでっ…ゴホッ、31勝30敗1分けだっ…」
「うぐぬ〜……」
『大丈夫…?』
二人とも肩を盛大に揺らして呼吸をしている。よっぽど全力で走っていたみたい。大会前にこんなに走って大丈夫なのかねぇ。
「………違う」
「違わねぇ!!俺の逆転だっ!!」
「…おれの30勝32敗だ」
「??」
いつも影山君と張り合っているような翔陽君がまさか自分から負けを認めるなんて思いもしなかった。
「去年の今頃、お前に負けた。ボロ負けした」
大会の日なのに、なんだか空気が重い。だけどその雰囲気を不快だと思わなかった。
「"お前がコート上に君臨する王様なら、そいつを倒しておれが一番長くコートに立ってやる"お前を倒すのは絶対おれ!!それが10年後でも20年後でも絶対!!」
私は信念のこもった言葉に圧倒された。翔陽君は誰よりもバレーにまっすぐで、真剣に向き合っている。
『翔陽君カッコいい…!』
「え、そうかな!?」
「何デレデレしてんだボケェ!」
「し、してねぇよ!」
「…ま、てことはこの先お前は俺と同じ舞台にいるってことだな?」
「お、おーよっ」
「それが日本のテッペンでも、"世界"でも」
セ、セカイ………!そんな大台に乗ってしまいますかっ!頭の中で世界地図が広げられる。しかしこの二人ならどこまでも行けそうだ。
「あ、当たり前だ!!」
見たい、見てみたい。世界でも一緒に戦っている二人を……。
『凄いね、2人共!』
「あ?何がだ?」
『目標がちゃんとあって、それに向かおうとしてるところ、ほんと尊敬する』
「名前ちゃんはなんか目標とかねぇの?」
翔陽君に言われて口籠りする。目標……?そう言われてみれば私の目標ってなんだろう。
頭の中で一生懸命考えてみるけど、想像がつくのはやっぱりあの大きな目標しかない。でも私なんかがそんな夢を抱いてしまっていいのだろうか。
見たこともないあの"頂の景色"をみんなで見たい。みんなとならどんな困難も乗り越えていける、なんてくさいセリフも、今なら簡単に言える気がした。
『私なんかがこんなこと言っていいか分からないけど、みんなと、………IHに行くこと、かな。』
途切れ途切れになりながらも、現地点での自分の本当の気持ちを伝える。生意気、だとか思われてないかな…。
「よく言ってくれた、苗字!」
『澤村先輩!』
「「はざまーす!」」
翔陽君と影山君の2人と話していると、三年生の声が聞こえてきた。第一声をあげた澤村先輩は私の直ぐ後ろに立って私の頭に手を置いている。
「苗字がその気持ちでいてくれるだけで、雰囲気が随分変わってくるからな」
「大地が言ったとおり!苗字が応援してくれると田中とか西谷のやる気が俄然違ってくるからな〜」
「苗字、その、いつも応援ありがとう」
いつの間にか背後にいた澤村先輩、菅原先輩、アサヒ先輩が一人ずつ声をかけてくれた。澤村先輩は言いながらポンポンと優しく頭を撫でてくれた。
『はい!頼りにしてます澤村先輩、菅原先輩、アサヒ先輩…!』
自分より何十センチも高いであろう先輩を見上げる。先輩方と話していると自然と笑えていて、三年生パワー恐るべしと思った。私よりも2年程長く生きている先輩方は、やはり貫禄が違う。
「「「おうっ!!」」」
3人分の笑顔が太陽に負けないくらい輝いた。うわー、私、一緒に青春してるよ!
「IHに出るにはまず、この日本の東北6県の更にその中の一県の予選の一回戦ちゃんと勝つぞ!
期待してるからな変人コンビ!!」
「「オス!!!」」
変人………?そうか、二人は変人コンビって言われてるのか。確かに普通じゃない、特別な二人だ。
勿論、三年生の先輩方だけではない、今日私は皆さんを全力で応援します!