君にドンピシャ
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
誰だろうかと急いで外に出ると、
「来ちゃった」
「…………」
俺の家に、エコバックに食材を詰め込んだ幼なじみがやってきた。
幼なじみ、というか腐れ縁みたいな奴だ。
高校は別々だったはずなのに、最近になってよく会う。と言っても隣の高校だったけどな。会うんじゃない。こいつが何故か突然俺の家を訪ねてくるんだ。最初はもちろん驚いた。なんで俺の家知ってるんだよ、ストーカーかと思った。
それが始まったのは俺の大学が決まって、気ままな一人暮らしが始まったころだ。姉上を一人置いて来ちまったのが心残りだが。
対して、親離れせずに自分の家に住む名前は、十分な店がないこの地域で暮らし始めた俺に、たびたび料理を作りに来るというわけで、会いに来るのはそれが理由らしい。ありがたいっちゃーありがてぇけど…。
「あがんなせぇ…」
「おぉ!総悟が大人しく私を家にいれてくれるなんて珍しい!」
「……うぜぇ」
たまには素直になってみてもいいだろうが。そんなに俺が素直になるのが珍しいかよ。…でもそう言われてみれば、いつも意地を張っていたかもしれない。
普段はこんなことを口走る俺だが、名前が、会いにきてくれて嬉しいのは事実だ。なにせ料理が得意ではないからだ。作るとしても俺がつくることができるのは程度が知れている。
土方のヤローは、毎月あの犬の餌に使う調味料(マヨネーズ)を送ってくる。そんなのを食べてしまえば俺の胃袋はどうにかしてしまう。
「んで、今日はなんですかぃ?」
「今日はシチューだよー」
「ッハ、そうですかぃ」
また鼻で笑っちまうようなマネをしてしまった。名前は、いつものことのように気にしていないようだ。
俺はこれ以上姉上の世話になるわけはいかないと思ってこの土地にやってきた。
早く稼げるようになって、姉上を安心させたいんだ。
「そういやぁ、まだお前の作ったシチューは食ったことないなぁ。」
「あれ?そうだっけ?…んじゃあ楽しみにしておいて」
「しょうがねぇな」
「あれ?さっきの素直はどこに行ったんだか…。」
そうして名前はキッチンに向かった。俺はその間何もすることがないから、ソファーでダラダラしながらテレビを見ている。あぁ腹減った。
ふと気づいたが、俺はこいつの作った料理でまずいなんて思ったことねぇな。
意外と俺の舌にあってるのかもしれない。考えてみれば、こいつの料理はどことなく姉上のと似ている。
俺はふと笑った。
料理が出来上がると、俺がそれを持っていく。お決まりごとだった。
運んでいる時にフワリといい匂いが漂った。
シチューなんて作るのは簡単だろうけど、こいつが作ったからよけいうまそうに感じる。
無事に運び終えると、皿とスプーンを二つずつ持った名前が食べる準備をしていた。
「飲み物持ってきやす」
「あ、ありがとう」
そう言って再びキッチンに向かった。コップを二人分とって飲み物を注いで帰ってくると、シチューはすでに皿に盛られていた。やっぱりうまそうだな。俺は名前の正面に座ってスプーンを持った。
「いただきやす」
まだ熱々のシチューは、掬うとトロリと零れ落ちた。
丁度いいサイズに切られた野菜とトロトロのシチューを一緒に掬って口へと運んだ。
「……ふーん」
「ん?」
「小せえ時から相変わらず料理の腕だけはいいみてぇだな」
「余計だよ!」
小せえ時から何かしら俺に食いもんを渡してきた名前。その時はいろいろ失敗をしていたが、今はこんなにも上達している。人間ってやっぱり成長すんだな。こいつがつくる料理は、本人には恥ずかしすぎて言えないが、そこらのシェフよりうまい気がする。
…そうか、俺にはやっぱり高級なものよりも庶民の食べ物の方があってるってことか。
「でも、良かった。ミツさんに料理習っておいて。」
「おまえ、姉上に教えてもらってたのかよ。」
初めて知った。どうりで味が姉上のと似てるわけだ。
「うん。総悟に内緒でこっそり作ってたの。私がミツさんにお願いしたんだ」
言われてみれば、長いことあいつがうちに通ってたことを思い出した。
俺の方は、なんだよ毎日毎日飽きねえな、と思いながらゲーム(土方抹殺ゲーム)をしていた。
日に日に増えていく絆創膏を見ても何も思わなかったのか、あの時の俺は。
あの頃はまだ、俺も餓鬼だったからな。
会話が途切れると食器が重なる音が少し続いた。
食べ終わると食器をもってキッチンへ向かった。
「いいよ、私が洗う。」
俺の後に続いて名前がくる。
「んじゃ、頼んまさぁ」
素直じゃない俺はまたあいつに背を向けた。
やっぱりたまには素直にならねぇとな。
「今日もうまかった……。」
「………!」
俺の胃袋は完璧あいつに犯され始めてることを自覚した。