果たされた愛言葉
彼が忙しいのはしょうがないことなのだ。
その言葉をいったい何度自分に言い聞かせてきたのだろう。私と彼の暗黙の了解ってやつだ。
バスケをしている彼は大好きだし、ただちょっと寂しいなって思うくらい。
バスケ部には休日は殆どなくて、あったとしても彼は疲れているだろうからデートなんていけない。無理矢理デートに誘ってめんどくさい女だとは思われたくない。
それでもデートに行けなくてごめんと彼のすまなさそうな顔を見るたびに、がっかりする自分を押さえこんで笑顔を作ってきた。
ごめん、と謝る彼に、いいよ、と笑う。
だって貴方は忙しいんだもの。全国優勝がかかっているんでしょ?だったらしょうがないよ。
バスケと私、どっちが大事なの?なんて馬鹿みたいな質問はしない。
彼がどちらも同じくらい大事にしてくれていること分かっているから。バスケが終わったらきっと私に構ってくれるんだろう。
それまでの辛抱だ。ただ時々、ほんの少しでいいから私を優先してほしいなんて欲が表に出てしまう。ちゃんと割り切っているハズなのに、どうしても我慢できないときがある。
「次のデート、いつできるかな」
「んー…ごめん。まだ分からないよ」
「ハハ、そっかぁ」
がっかりした声を出すと、辰也はすまなさそうな、困ったような顔をして「ごめん」という。
私は貴方を困らせたいわけじゃないのに。謝って欲しいわけじゃないのに…。ちょっと無理を言っちゃったかな?
「今はバスケ忙しいもんね。しょうがないよ」
「うん」
こつん、と隣にいた辰也の胸板に甘えるように頭を寄せる。
そうすると、自然と辰也の腕が私の背に回って、抱きしめられる恰好になった。
本来であれば、こうして二人でいられるのも珍しいくらいなのにワザワザ辰也が私のために時間を作ってくれた。そんなさり気ない優しさも大好きだ。
「ウィンターカップが終わったら、遊園地に行こう。」
「遊園地に……?」
「うん。去年行きたいって言ってたでしょ?」
「覚えてくれてたんだ…。」
「もちろんだよ。ウィンターカップが終われば、一日くらい休みもらえるだろうから」
私の頭に顎を乗せた辰也はきっと微笑んでいるのだろう。
「約束だよ?」
「あぁ、分かった。」
「じゃあ指切りげんまん!」
そう言いながら互いの小指を絡めて笑うと、辰也も安心したような顔して笑う。きっと実現できていなくても約束出来たことに安心しているのだう。
忙しくていくつもの果たされなかった約束、どうか次こそは叶いますように。