こっちを向いて


久しぶりに足を踏み入れた見慣れない家。私はいつもと変わらない部屋の状況に、軽くため息を吐いていた。暗いため息とかではなく、感嘆のため息だ。
なんと言っても林檎先生の家はお屋敷だ。伊達にアイドルをやっていないな。

でも、いつものリビングのソファに先生はいなくて。林檎先生は知らぬ間に部屋の隅でいじけていたのだ。


「どうしたんですか?先生」

自分の言葉に、いつもの覇気が感じられない。だってこんな先生は珍しいから。何時もはキャー、とか言って抱きついてくるのにな。


「先生、先生ってば……。」


肩を引き寄せて、愛しい人の顔を覗き込んだ私。すると、ちょっと泣きそうな顔の林檎先生がいた。しかもちょっと怒ってるような……。

「名前の馬鹿……。」


ボソリと呟かれたそれによって、どの位怒っているのかが分かってしまった。うん、対して怒っていないみたい。ぷいっと背を向けて、再び押し黙った先生の姿が可愛い。


……それにしても何故怒っているのだろうか。心当たりは…………、ある。


きっと、林檎先生に黙って日向先生とお茶していたのがバレたのだろう。何もやましい事なんてないのに、先生は勘違いをしているんだ。というかこれも日向先生と考えた作戦の一つだったりして。

「先生、ごめんなさい。」
「……、謝るってことはやましい事でもあるの?」
「全くないです。…実は日向先生と一緒に作戦を考えてたんです」
「作戦?」

きょとんと情況を理解していない顔がまた可愛い。先生は性別を間違って生まれてきたに違いない。

「先生にヤキモチを焼いてもらいたくて…。だから…。」

言いかけて、先生の背中に後ろから抱きつく。

「その…先生がやきもちを妬いてくれたのが、嬉しいです。」
「あぁーん、もう!龍也のバカバカっ…。あたしをこんな思いにさせて…っ。」

どうやら作戦大成功みたいです。