正常であれ誰かの理性
変態─「正常ではない状態」 変質者─「性格・気質の異常な者」
もう一度意味を見直してからそれを閉じる。そして大きなため息を零し、奴の顔を思い出す。最初は素敵でカッコいい人だとは思ったんですよ?でもまさか………
「はじめまして、ノボリと申します」
初対面。彼はぺこりとおじぎした。この時点でそれほどおかしい男ではないようだと私は判断した。そしてつられて笑顔で挨拶をすると、なぜか男は震えている。
「あの…どうかしたんですか?」
下を見てプルプル震えているノボリさんを凝視していると、とうとう物凄い勢いで顔を上げた。
「あぁ、………なんと麗しいのでしょう…。そのつぶらな瞳、愛らしい体躯。全てを包み込むようなその声……、全てにおいて麗しいです…。」
急にどうしたんだろう、この人。パニック状態の私の頭はそれでも冷静に警鐘を鳴らしていた。
(…この男は危険である!異常極めて異常なり。直ちに回避せよ)
初対面でこれは、流石にどんな人でも引くだろう。いや、初対面でなくても全力でひく…!
それに変態さんのストーカー行為は日に日に増すばかりだ。もしも彼が容姿端麗でなければ即通報していたところだ。私としたことが、結局は容姿に惹かれちゃってるんだけども。
「名前様、発見いたしました!」
また来た。
私は舌打ちしたい気持ちを抑えながら、声を掛けてきた男の方をなるべく見ずに、素早く歩き始めた。
「お待ちしておりました。ご一緒に帰りましょう」
「……毎日毎日、待ち伏せするのやめてくれませんかね…?」
苦々しく吐き捨てると、嫌なくらいに整った顔で、にっこりと笑った。
こう言いつつ、今ではもう一緒に帰ることが、私にとっても『当たり前』になりつつあった。
もちろん、駅のホームでバッタリ会ってしまったり、声を掛けられたりすれば、「げっ」とは、思う。でも最初の頃に感じていた、ひどい鬱陶しさと苛立ちは、直樹の飄々とした態度に、次第に溶かされていったようだった。
今では、軽口の応酬を楽しいとさえ感じ始めている自分がいる。
「嫌でございます。わたくし、名前様が愛しくて仕方がないのです」
「………、分かりました、今日だけ一緒に、帰り、ましょう…」
「名前様………、がデレた…!愛しい名前様がぁ……!」
久しぶりに素直になってみればこれだ。今にでも鼻血が出そうな勢いだ。
「私めは全身全霊をかけて名前様をお守りいたします…!」
「よろしくお願いします…?」
暫くこんななんでもない関係が続きそうだ。
単語
変態、デレ