私はこの世に蘇った。
今の私には蘇ったという表現がしっくりくる。数時間前に一生の眠りについたかと思えば、今こうして目を開けて外の風景を確認する事ができる。
目を覚ましたと報告を受けて病室にやってきたお母さんは、しばらく私の傍で泣いていた。私が小さい頃にお母さんにやってもらった時のように、私もお母さんの頭をあやすように撫でた。
奇跡とも呼べる私の生還には医者たちも驚いていた。そうは言っても、まだ事故の傷は残っているし、精密検査などを受けなければいけないので、しばらくは病院のお世話になりそうだ。
私が目を覚ましてから4時間後。
急に開いたドアに肩を揺らした。この感じ…知ってる。お母さんはカーテンをそっと開きその人物を確認した。
「名前は…」
「えぇ、こっちよ」
遠くから聞こえた声にドクンと心臓が跳ね上がる。私は心地よい声を聞いて目をそっと閉じた。
「名前っ!」
目を開けた時には、私はもう温かい腕の中にいた。お母さんはニコリと微笑みながらその場から立ち去った。
『孝支君……!』
「名前。名前っ…」
何度も私の名を呼ぶ孝支君。今度はしっかり触れている。その存在を確かめるかのように、痛いほど強い力で私を抱きしめる。私はこの短時間で何度彼の名前を呼び、何度私の名前を呼びかけられただろう。
『孝支君、戻ってきたよ…。』
「………あぁ。」
『記憶………、消えてないよ…!』
「…っあぁ。」
『また、孝支君と一緒にいてもいい?』
「もちろんだっ……」
孝支君はようやく腕の力を緩め、私の顔をじっと見つめた。彼の顔には涙の後が無数にあった。でもそれはきっと悲しい涙じゃないんだよね。
視線を交じり合わせた後、自然と唇と唇が触れ合う。体温を確かめ合うようなそれには、私が生きていることを実感させるには十分だった。
『貴方に出会えてよかった。たった20年の人生でも、こんなにも愛しくて、こんなに愛してくれた人に出会えた私は幸せ者だよ』
笑顔でいるのに、何故か瞳からは涙が零れ落ちる。それも悲しみの涙じゃない。嬉し泣きとも少し違う。愛しくて、愛しくてたまらなくて込み上げた涙。その涙を彼は唇でそっと拭う。
「俺も名前に出会えて幸せだよ。名前と過ごした時間が、今までで一番輝いていた時間だった」
潤んだ孝支君の瞳に、私が映しだされている。
「誰よりも愛してる。これから先も、ずっと…」
孝支君は私が大好きな笑顔を浮かべ、そして再びそっと口づけをした。
「もう一度ちゃんと伝えたかった。聞いてくれる?」
『うん』
「俺と結婚してくれませんか?」
『………はい!』
言葉では言い表せないほど、孝支君を愛しいと思った。
涙でぼやける彼に私は自ら唇をかさねる。優しく温かい腕で孝支君は私を抱きしめる。
二人でおでこをコツンとあてて、微笑みあう。
私達の紡ぐ物語を過去形になんてさせない。
これからの未来は、自分たちの手で切り開いていくのだ。
だから、私がこれまでどれだけの人に支えられて生きてきたのかを決して忘れてはいけない。
その事を優しい天使が教えてくれた。