「………、さん!…さん!」
『……ん』
誰かの声で目が覚めた。あれ、あの後私…どうしたんだっけ?
確か、車が私に向かって突っ込んできたんだよね?でも今見ている光景はその時と全く異なっている。
目の前の光景に慌てた私は、可能な限りありとあらゆる方向へ視線を向けるが、どこを見ても同じ。真っ白な空間の中、自分は一人横たわっていると理解する。
知らない場所。自分の他には誰も見当たらない。心に生じた不安や恐怖が、自分の中でどんどん大きくなるのを感じずにはいられなかった。
一先ず何か行動を起こさなければいけない。そう思った私は、自分の体を動かし起き上がろうとした。しかし、私の意思に反して身体は妙に重く動けそうにない。
「名前さん、はじめまして」
自分の名前を呼ばれて、私はようやく声の元へと視線を向けた。
目に入ったのは天然パーマ気味の綺麗な金髪の髪をした少女。そして、背景はやはり辺り一面真っ白い空間。
今の状況がよくわからなくて、私は目をぱちぱちと瞬く。目の前にいるのは、私の知っている人でもなければ今まで見たことがない人。…人?人と呼ぶには遠すぎる。だってこの子後ろに純白の羽が生えてる…!
「私は天使のリリルと申します。」
少女は明らかに外国の風貌の外見にも関わらず、流暢な日本語で私に優しく話しかける。それも綺麗で愛らしい笑顔で。
未だにまったく状況が飲み込めなくて、私は口ごもった。
だいたい、ここはなんなのだろう?
先ほどの状況から考えて、白と言って真っ先に思い浮かぶのは病院の壁の色だ。だが、病院ではないのは確かどころか、天井も壁も出入り口もないただひたすら白い空間。
返事もせず黙っているいる私を、彼女の廃れない瞳が映し出す。頭がパニック状態で焦点の定まらない私とは、視線を合わせようにも合わせることができない。
たしか、私が最後に見たのは向かって来る大きなトラックだった。
そして今はどうだろうか。現実にはあるはずの無い真っ白な空間。見たこともない羽の生えた少女。
『…私、死んだの?』
「いいえ、ちゃんと生きてます!ただ、今後のあなたの行動次第で生死が決まります。」
『それはどういうこと…?』
「はい、説明すると長くなるのですが…。」
リリルと言った少女は再び温かい笑みを浮かべて、
「もし名前さんが、望むのであれば天使にだってなれるし、また人間として生きることができるということです。」
きっぱり言い放った。
たったこれだけの言葉なのに、私の心を揺さぶるのには十分だった。