私にはまだ選択肢が残されている。
『人間になったらまたみんなに会える?』
私は思わず少女に声を掛けていた。
「はい勿論です!でもですね…、名前さんが人間に戻ることで一つ問題点が生じてしまうんです」
『問題点…?』
リリルは決まりが悪そうに視線を泳がせる。相当言いづらいことなんだ。そりゃただで人間に戻してくれるわけがないだろう。
「名前さんが大切に思っている人との、一緒に過ごした記憶はすべて消去されてしまうんです。」
『…………!』
「そして一生相手を思い出すことはありません。相手も名前さんの事を思い出すことはないです」
柔らかな声のはずなのにどこか居心地が悪い。心がモヤモヤして今にも吐き出しそう。今の状況でさえまだ把握しきれていないのに、この事を聞いたらもっと、…もっと辛くなってきた。
私が大切に思っている人は沢山いる。家族、親友…そして孝支君。
「これがもう一度人間になるための条件です。」
『天使になる条件は?』
「いえ、特にありません」
天使には無条件でなることができる。
孝支君と出会う前の私だったら、迷わず天使になる道を選んでいただろう。
「もちろん今、無理に決めろとは言いません。決断の期限は今日を合わせて3日間です。どちらにするかじっくり考えてくださいね」
私が静かにこくりと頷くと、リリルはゆっくりと立ち上がる。
『その日のうちに決められなかったらどうするの?』
「私にも良く分かりませんが、恐らく強制的に天使になるかと…」
3日後、私が決断を下すことが出来なかったら天使になる。それよりだったら自分で満足のいく決断をしたい。
「お声を掛けることは出来ませんが」
そして、リリルは丁寧に話を続ける。
「人間界へお連れして、皆様の様子を窺うことができます」
『行きたい。』
即答する。純粋にただみんなに会いたかった。今、皆はどうしているんだろう。
「分かりました。」
リリルは真剣な面持ちになると僅かに目を伏せ、すっと右手を伸ばした。するとその掌の中に、まばゆい光と共に木の杖が現れる。いかにも魔法使いのようなアイテムだ。
「では、行きましょう」
『お願いします…。』
私はこの三日間で決断を下さなければならない。
天使となって彼らに覚えてもらっているか、それとも、もう一度人間になって私と一緒にいた時の記憶がなくなってしまうか。