/運命を運ぶ風/
私の大好きな場所に、彗星の如く現れた突然の訪問者。
この土地では見たこともない男の子。
それも昨日きりだけだと思うと少し悲しくなった。
あの後、けいじ君を無事に森の出口に送り届けた私は、そのまま満足げに家に帰った。手を繋いだまま、無言だったけど、不思議と嫌な気分じゃなかった。
まるで前から知り合いだったみたいに、けいじ君の存在をすんなりと受け入れることができた。
けいじ君、ここら辺じゃ見ない顔だけど何処の人なんだろう。どういう性格の人なんだろう。なんで昨日はあの丘で会えたんだろう。"あかあしけいじ"ってどう書くんだろう。
疑問ばかりが頭を駆け巡るが、難しいことを考えることが嫌いな私は、それ以上考えないことにした……かった。でもどうしても彼のことが頭から離れなくて、どうせならもっと話しておけば良かったと後悔した。
なんで遊ぼう、とかこえかけられなかったの!私の馬鹿!きっとけいじ君は遊んでくれただろうに。でも雰囲気からして落ち着いた様子だったしあまり活発に遊ぶタイプじゃないんだろうか。
分からない。
からこそもっと知りたい。
同じクラスの男の子は元気で悪戯っ子で、騒がしいけど、けいじ君は違う。一回り大人で、頼りになりそう。初めて見るタイプの人だ。
…もう会えないんだろうなぁ。風が滑るように肌を撫でる丘の上で寝転がりながらそう考えていた。そして、眩しい太陽に手をかざした、時だった。
「………。」
『わぁ!け、けいじ君!?』
ずっと空を見上げていたら、私の視界に青ではないものが写り込んだ。綺麗な空に匹敵するくらい綺麗な顔立ちの男の子。けれども男の子はまだ幼い。これから成長が気になる容姿であることは間違いない。
今考えていた彼がまさか現れるなんて。
『あれ、今日はどうしたの?』
「家にいても暇だから、暇つぶし」
『そっかー!』
けいじ君がまたやって来た。今度は迷子じゃないみたい。よくここまで来てくれたなぁ。
嬉しいなぁ。
私は内心で喜ぶつもりだったのに、嬉しさのあまり思い切り万歳をした。その時のけいじ君の目線は丁度迷い込んできていた小動物に向けられていた。
『そう言えば、けいじ君はどこから来たの??』
「東京」
東京、憧れの響きだった。知っている、東京は日本の首都?ですごく都会だそうだ。そんな大都会からどうしてここに?憧れの地からやって来た人の話をもっともっと聞きたい。
東京ってどんなところ?とか東京は過ごしやすい?とかいっぱい、いっぱい聞きたいことがある。あ、ここからどのくらい遠いのかも聞いてみたい。誰と来たのか、今けいじ君は何歳なのかも知らない。
『東京…!?凄いね…、ここからだと凄く遠いんだよね?』
「うん」
『うわぁー、行ってみたいなぁ。いい所?』
「まぁ」
眈々と受け答えするけいじ君。いつの間にかけいじ君は私の隣に腰を下ろしていた。そして同じようにあの青を見上げる。今日は頭上の雲の形は犬に見える。この前はウサギに見えた。いつかの大きな雲はソフトクリームだっけ。
『そっか〜〜』
「君は?」
『ん?』
「君は何処に住んでるの?」
まさか質問されると思っていなかったので、少しばかり目を見開く。そうか、けいじ君には自分のこと何も自己紹介していなかった。お母さんにも他人にお名前を教えてもらったら自分も返すんだよって教えてもらったじゃないか。
『私はこの町に住んでるよ。家、結構近くなんだ〜』
自分に興味をもってくれたのが嬉しくて、声色を高くして興奮気味に返事をする。まるで得意分野だと言うように、私は得意顔で語った。そりゃそうか、自分の住んでいる土地も分からない小学3年生はまずいないか。さすがに自分の家の場所くらいは分かる。
「何年生?」
『小学3年生だよ』
「なんでここにいるの?」
『ここは、私の秘密基地なの!今の時期は、森が太陽を遮って凄く涼しいんだ』
「へぇ…。」
けいじ君に対しての疑問は沢山あったはずなのに、今度は私が質問攻めされてしまった。
でも少しでも私に興味を持ってくれてとても嬉しかったことを今でも覚えている。