/願いを叶える星/
赤あし京治君。
あしの漢字は本人も難しすぎて書けないらしい。普通の足じゃないんだなぁ。習った範囲の漢字ではないみたい。
彼は私と同い年らしく、毎年夏休みと冬休みはこっちに遊びに来ているらしい。なんでも、実家がこの町にあるようだ。母親方の実家ということまで京治君は知っていた。彼はお婆ちゃんとお爺ちゃんに顔を見せに来ているようだ。いつか遊びに行きたいと思いながらも、流石に住所までは図々しくて聞けなかった。
この町に京治君のお母さんの実家があるのは間違いない。そう考えたら会うこと自体苦ではないように思う。
次の日も、また次の日も丘に"京治君"がやって来た。私はその度に得も知らぬ感情に呑み込まれる。
嬉しいのか、楽しいのか、ワクワクするのか、どれにせよプラスの感情だけが募っていく幸せな日々。
一週間ほど一緒に過ごして、知らなかった京治君をどんどん知っていく。でもまだ足りなくて幼心ながら彼をもっと知っていきたいと思った。それと同時に彼には私のことを知って欲しいとも思った。
『京治君!ここの近くの小川ではお魚がいっぱい獲れるんだよ』
「へぇ」
『今度一緒に捕まえに行こうよ』
「……君は本当に女なの?」
『え?何か言った?』
「いや、なんでもない」
京治君は話し声が小さくてたまに何を言っているのか分からない時がある。でもそんな時は気にせず話を続ける。
「でもいいかもね。魚釣り」
『でしょでしょ?釣るのもいいけど、手で獲るのもいいよ』
「ソレ本気で言ってる?」
『ほんと、ほんと!鷲掴み』
京治君の顔が引きつっていた。東京ではそういう事はしないんだろう。育ちのよさを痛感させられる。いや、それが普通で私が元気すぎるだけなんだろうか。どちらにせよこの期間の間、京治君が自然の楽しさを覚えてくれると嬉しい。だってここは私の大好きな場所。大好きでたまらない場所だから。
『ここでは夏は昆虫採集でー、冬は雪合戦とかできるの!ね?凄いでしょ?』
「うん。凄い」
京治君の感情は読み取りづらいけど、毎日ここにやってくるってことはきっと楽しんでくれているんだろう。と勝手にポジティブな方向に考えるのは私の大特技だ。じゃなきゃ毎日が楽しいはずがない。
京治君と過ごすこの期間はすごく楽しかった。京治君と過ごした時間が、知らないうちにかけがえのないものになっていた。
会って間もない京治君は、私の大切な人リストに堂々と追加されたのは言うまでもない。
あれ、そういえば今まで全然気づかなかったけど、もしかして京治君には夏休みが終わったら会えなくなっちゃう?それを考え始めるとらしくもなくチクリと心が痛んだ。
そうか、私と彼とでは住む場所が根本的に違う。
私はここに暮らしていて、彼は東京というところに住んでいる。私の知らない場所。
「そうだ、俺、明後日東京に帰ることになったんだ」
『……え?……そっかぁ』
まだ夏休みは一週間ほどあるが、さすがに夏休みの全てをこちらの町で過ごすわけにはいかないんだろう。それに聞いたところによると、東京の学校の夏休みはこちらの夏休みよりも長いらしい。その代わり冬休みはこちらの地域の休み期間が長くなるようだった。
彼との別れに予想通りショックを受ける私。
「でも、冬休みにまた来る、から」
『ほんと?』
「絶対来る」
京治君の言葉はいつも真剣味を帯びている。その何を考えているか分からない瞳が、私を安心させてくれる。そばにいてこんなに安心する人、家族以外に知らない。
『だったら我慢しないと!』
「何を?」
『京治君に会えなくなるのは寂しいけど、また会えるんだからちょっとくらい我慢するの』
「………、」
この夏、丘で京治君に会えるのが楽しみになっていた。
そしてまた次に会う日を心から楽しみにしていた。
他ならぬ京治君に会うことを。