ある日の午後。
私,名前は彼氏であるハル君の部屋にいた。
ハル君は水泳部で忙しくて、なかなか会えなかった。
だからこそ、久しぶりのお部屋デートにちょっとだけ緊張しているというわけだ。
あぁー、この部屋ハル君の匂いがする。なんて私は変態か…。
私は、陽だまりみたいな、温かいハル君の匂いが好きだ。
元々、女の子とはさほど関わりの無いハル君が、私にさり気なく告白してきた時のことは忘れられない。それは、まだ水泳部が設立されていなかった一年生の頃の話。
同じクラスで一人ぼっちのハル君に話しかけてから、少しだけ仲良くなった。
懐かれた…と言っても過言ではないだろう。
それで、一年生の後半に気づきにくい告白を受けて、okしてしまった私。その時、まだ気持ちは定かではなかったはずだ。
結局、付き合えて良かったなんて思える日が来るんだけれども。
付き合い始めてから、ギクシャクした関係は長く続いた。付き合っていなかった時の方がよっぽどよかったと思うほどだ。でも、水泳部が出来てからハル君が私に初めて正面から好きだと言ってくれた。
いつでも冷静沈着で、無表情の顔がほんの少し真っ赤に染めあげられていた。
この時、水泳部がハル君の何かを変えたのだと思った。思ったのではない、それは確信だった。
それからどんどん好きになって…。今に至るわけだ。一日一日の積み重ねで、ハル君を好きになっていく。
これから見せたことのない表情や、いろんな一面を、一番近くで、つまり隣で見ていきたいと思うようになった。だからこそ、ハル君の部屋に来れたことが嬉しかったのに…。当の本人は、私のことなんて御構い無しに、さっさとベットに座って水泳の雑誌を読み始めてしまった。
泳ぐことが大好きなんだな。前にお部屋デートにきた時もこうだった。
彼女がいるというのに無神経というか…、なんというか。そんな所もひっくるめて全部好きだと思うのだから不思議なものだ。
ハル君は雑誌を読み始めると、集中しているらしく私の行動なんて気にしていられないようだ。つまりは、しばらくなにもすることがないので、部屋のなかをきょろきょろと眺める。
それだけじゃ、つまらなくなってきてハル君の座っているベットに恐る恐る近づいてみる。そして、慎重にその上へと行って隣に座った。
チラッと雑誌を見ると、やはり水泳関係のことしか書いていない。すると、ふと気になったことがあった。それは、ハル君だって男なんだから、何処かにいかがわしい本なんかを隠し持っているのではないかと。
そう、例えばベットの下なんて…。思いたったら行動するのが私のポリシーなので、雑誌に集中するハル君を横目にベットの下を覗き込んだ。そこは見事に空っぽで、安心感を覚えた。
私が起き上がっても、ハル君は何も言わない。やはり気づいていないのか。更に暇になってきたので、そのままこてん、とベッドに寝転がる。そこには、大好きなハル君のにおいがする。その匂いを堪能しながら、まだ雑誌を読んでいるハル君を見つめた。
せっかく二人っきりなのに、かまってもらえない。こういう時しか、かまってもらえる暇がないのに。
口を尖らせて、ハル君を独り占めする雑誌を見やった。羨ましいな、なんて思いながら枕を抱いた。まだ、かまってくれないのかな。
ベットの上でいろいろしてみたけど、見向きもしてくれなかった。
とうとう寂しくなって、ぎゅっとハル君の背中に抱きついてみた。
水泳をやっているからか、運動部だから分からないけど、ガッチリとした、男らしい体型だった。
それでも、相変わらずハル君は知らん顔。
ちょっと酷いよ、…ハル君は私よりも雑誌が大事なの?と問いただしたくなった。
「ハル君」
「…なんだ?」
「ちょっとだけ寂しいな」
「……。」
「だから、…かまって?」
抱きしめる力を強くして、離れないようにする。
それでもハル君は何も言わなかった。まさか、私と一緒にいるのがつまらないとか…?
その思いとは裏腹に、ハル君は私を引き剥がしてから、改めて正面を向いて抱きしめられた。その力が強くて、身動きが取れなかった。
「悪い、…可愛くてついイジメたくなった」
また無表情が破られた。チラッと見た顔はあの時みたいな真っ赤な顔だった。つられてこちらまで恥ずかしくなってくる。私の顔はハル君の胸板によって隠れているから見えないだろうけど。
狡いよ、ハル君。
また、君を好きになってしまうではないか。
2013
prev|1|next
曖昧な彼