『……貴方にだったらなにをされてもいいんです。』
そのとき、俺の中のなにかがぷつりときれる音がした。
自分の勝手な判断で、苗字を家に招き入れた。
そして、トロリと色っぽい瞳をした彼女にかぶりつくようにキスとすると、彼女は綺麗な涙を流して美しく笑っていた。もう理性なんてなくなっていた。餌を求める猛獣のようにひたすら彼女を求めた。
そっと抱きしめると、男とは違う柔らかさで心地よく、とてもいい匂いがした。それだけで理性が飛びそうになった。
なによりも嬉しかったのは、彼女も俺を求めてくれたこと。愛しすぎて狂ってしまいそうだ。いつからか彼女に溺れてしまっていた。もう溺れたままでいい。
今は彼女を心の底から感じていたいのだ。
『ん…っあ、』
甘い声が脳を刺激する。何度も角度を変えてキスをすればそれに答えるように必死についてくる。
どちらのともつかない唾液が彼女の頬を伝う。互いの体温を直に感じる距離にいる。なめるように上から下までを見つめればそんなに見ないでくらさい…と恥ずかしそうにしていた。
その行為が俺を刺激するということを、彼女はわかってはいないのだろう。
どこまでも可愛い。
初めて目があったあの日から少し気になる存在ではあったが、仕事に一生懸命取り組む姿も、失敗してもめげずに前を見る前向きさも、常に周りに目を配って行動する気遣いがある事も、一緒に過ごしていくうちに彼女のすべてを好きになった。
そうして俺たちは気が済むまで甘い夜を過ごした。
***
「…んっ、…………」
あぁ。やってしまった。
隣でよこたわる彼女、名前をみて全てを悟った。隣で規則正しい息をして眠る彼女は寒い部屋の中で服を着ていない。肝心の俺の方も同様だ。昨日の酔った勢いでやってしまった。
やってしまったなんて軽いものではない。まだ俺たちは付き合ってもいない。正式に告白こそしたものの返事はまだもらっていない。
顔に熱が籠もる。こんなつもりではなかった。正式に恋人になってから、というのが一般的な筋であり、ただ会社の後輩と先輩という関係なだけだ。もう戻れない。やってしまったことはやってしまったこと。
……何も知らずに起きた彼女に何を言えばいいだろう。よく考えれば昨日、彼女は呂律が回ってなかったじゃないか。まさか、無抵抗な彼女を無理矢理犯したと…?いや、意識がなかったとしても、少なからず彼女は俺の名前を呼んでいた。あー…くそ、頭いてぇ。
というか昨日のが返事だったのか?
彼女の"期待してもいい"なんて言葉が俺の理性に火をつけた。けど、それは酔っていた彼女の本心なのだろうか。
もうわけわかんねぇ…。
きっと彼女の同意の上での行為だったら…彼女が起きても許してくれるだろう。
『ん…、っ』
隣でもぞもぞする彼女を見やると薄っすらと目を開けていた。
『宮地……さ、……キャーーーー!』
予想通りの反応だ。彼女は布団を引き寄せて体にくるんだ。幸い毛布は二枚セットで、互いの元に一枚ずつある。ってかやっぱり記憶がないのか…。ちょっとショックだわ、割と本気で。
「わりぃ…。こうなっちまって」
『い、いえ』
名前は恥ずかしさが頂点に達したのか、全力で自分の顔を隠している。そして、暫く黙った後、彼女は恐る恐る布団から顔を覗かせた。
『実は、昨日少しだけ意識があったんです。その上で宮地さんを受け入れました。嫌だって、…感じなかったんです。貴方だったから。その…、宮地さんが…好き…だから』
毛布を思いっきりくるんだままの彼女、見えるのは愛らしい目だけ。つぶらな、大きい瞳が俺を捉えている。まずい、もう一回抱きたい。…我慢しろ、俺。意地を見せろ。
「本当か?間違いじゃねぇんだな」
『…本当です。嘘偽りはありません』
そしてとうとう完全に顔を布団で隠して、表情が見えなくなった。やべえ、めっちゃ可愛い。よく好きなタイプを聞かれることがあった。その時は差し障りなく「努力を怠らない奴」なんて答えたが、結局人のタイプなんて好きになってしまったらあっという間にそいつがタイプに変わるのだ。要するに惚れたもん負けってことだな。
愛しい彼女を毛布ごと抱きしめると、両手を俺の背中に回してギュッと抱きしめ返してきた。人の体温というものはこんなにも暖かいものだったとは、少し前の俺には分からなかった。
『大好きです…宮地さん』
「俺もだ、苗字」
少し顔を覗かせたその唇に、甘くてとろけるようなキスを一つ。
それだけでは物足りず、もう一度。
俺たちは時間を忘れて、何度もキスを繰り返した。
(宮地さん、じゃなくて清志って呼べよ)
(えぇ。ハードルが高すぎます!)
(あぁ!?呼べねえっていうんならもう一回犯すぞ?)
(き、きよさん!)
(し、がねえぞ、し、が!)
(きよさんじゃ駄目、ですか?)
(駄目、さんいらねぇ)
(うぅ…)
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