生活の一部分
俺の朝は早い。

と、いうのも俺は社会人一年目で他の社員より早く行って机拭きやらちょっとした掃除なんかがあったりするからだ。

カランと音を立てて俺が入ったのは小さなコーヒーショップ。朝早く空いていたこの店に始めて入店したのはつい先日のことのように思える。

朝の雑用は40分程のんびりしてから会社に向かえば十分だ。俺は毎日ここで朝食とコーヒーをいただくことにしている。それが毎日の日課のようになっている。

店内を見回すと僕と同じようなことを考えているであろうサラリーマンやOLがチラホラ。そうした人たちは常連も多く、会話こそ交わさないがちょっとした顔見知りだ。

『いらっしゃいませ。おはようございます』
「おはよう」
『今日も早いですね』
「君もね。」
『これも仕事ですから!それ新しいネクタイですよね?』
「そうなんだ。よくわかったね」

『お兄さんのネクタイ可愛いから、毎日ささやかな楽しみなんですよ』
「はは、そりゃ変なネクタイして来れないや」


迎えてくれたのはいつも笑顔で明るくハキハキとしている女の子。俺と同い年か、それよりちょっと年下の子。店の名札には苗字とかかれている。


『いつものですか?』
「うん、いつものでお願いします。」
『かしこまりました』

俺はにこにこする彼女に癒されながら、いつもの席に着いた。

朝食を食べてから家を出るよりも、会社近くで朝食を済ませた方が睡眠時間が取れることに気づいてここに来るようになった頃、彼女は新人としてここで働いていた。可愛らしい笑顔が特徴的で、彼女目当てのお客も少なくないという。


俺の席からはカウンターがよく見える。最初はわたわたとしている姿をニュースをチェックをする視界の端で見るともなしに見ていた。注文を間違えられて作り直しますと謝られて、あんまり落ち込んでるものだからそれでいいよと苦手な甘いカフェオレを飲んだこともあった。


度重なる残業が祟って、朝食をとりながらうたた寝をしてしまったある日、彼女が俺の肩を優しく叩いて『お兄さん、そろそろ行かなくていいんですか?』事もあったっけ。


俺がここを出る時間を覚えててくれて、気にかけてくれたことが嬉しかった。次の日に起こしてくれたお礼を言ってから、彼女と毎朝言葉を交わすようになり、今では毎朝の楽しみで生活の一部だ。


『お待たせ致しました』
「ありがとう」

俺にサンドイッチとブラックコーヒーを持って来たのは彼女だった。彼女が俺の顔をじーっと見るので、どうしたのか問うと、


『店長がようやくサンドイッチも作っていいよって言ってくれたんです。だからこれが私の初サンドイッチです。』


照れたように言う彼女に、味わって食べるよと返すと、彼女は嬉しそうに笑って、丁寧にお辞儀して戻っていった。

『食べていただけると、嬉しいんですが…。』
「食べてもいい?」
『……はい!』


もぐもぐとサンドイッチを食べると、食べ慣れた味、いつもと同じ味、の筈なのに、なにか特別で。僕は思わず微笑んでいた。

「すんごくおいしいよ。」


食べる前から言おうとしていたセリフは、本当のものになった。本当に美味しかった。実際はいつも食べているものと変わらないんだろうけど、どうしてだろうか。

その答えはすでに自分が知っている。

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