恋を教えて
俺は今まで本気で恋なんかしたことなかった。
自分で言うのもなんだが、イケメンの部類に入ると思う。
練習中には周りにいる女子のほとんどが、俺に恋心を抱いているかのような錯覚に陥ってしまうほどの声援。悪気は全くしないけど、何かが足りない。
応援してくれる女の子の中には、もちろん恋心なんて抱いていない子もいるだろう。例えば純粋なファンとか…。あぁ、もうこの話は終わりにしよう。今、俺の心の中にまで岩ちゃんの架空の鉄拳が届いた。「うっせぇボケェ!」って怒号付きで聞こえてきた。
「これより、入学式を始めます」
「それでは校長先生のお話…」
さて、入学式も中盤に迫ってきた。無駄に長い校長の話を聞きながら式の終わりを待った。
「次に新入生の答辞、代表苗字名前」
『はい』
答辞読む奴って大体成績優秀なんだよね。というか間違いなく首席入学の子だ。この北一で、入学式前にちょっとしたテストをやったのを思い出す。
…へぇ女の子か。
見上げた景色に映ったのは何1つ乱れのない制服に、ブレない視線。まさに優等生の見本って感じだった。それなのに、俺の描いていた優等生とは少し違って見えた。
俺の想像だと、優等生はガリ勉で、メガネで、それでもって三つ編みで…。ってこれはただの偏見だ。とにかく、想像とは違って彼女は首席らしからぬ容姿で。
俺の瞳に印象的に映ったのはその目だった。遠くからでも分かる廃れの知らない瞳は、彼女の性格を物語っているような、そんな印象を俺に植え付けた。そして、声も透き通っていて、すんなりと耳に入ってきた。
可愛い女の子は幾度となく見てきたが、名前というその少女もまさしくその中の部類に入るだろう。あとで話しかけてみようかな〜…。
そんなこんなで式も終わっていよいよクラス発表。
俺は誰と一緒なんだろう。
「ねぇ!あの人チョーかっこ良くない?」
言われて気分は悪くならない。寧ろ嬉しいけど、ここはあえて聞かなかったフリをする。
教室に入ると同じ小学校だった腐れ縁の友達が話しかけに来た。
「及川ー、またおまえかよ…。てか、また女子の視線がすげえな」
俺たちが話している間にもゾクゾクと生徒は教室に入ってくる。あの子はいないのかな……?あの、答辞を読んだ女の子。
そう思ってちょっと待っていたら、なんとあの子の姿を見つけた。
これはラッキーと感じながら静かに視線をその子に向ける。近くで見るとよくその顔が整っていると分かる。可愛いなぁ…。可愛くて頭いいとか羨ましい。
「名前〜、また一緒だね!良かったぁ」
『ゆんちゃん!私も一緒で良かったよ〜。』
彼女の印象がまたガラリと変わった。彼女は優等生の雰囲気を醸し出しながらも、意外とおっとりとした性格なのかもしれない。彼女の話し方には棘がなく、聞きやすいものだった。そして、触れ合いやすそうな雰囲気もある。
「あれって答辞の女子だよな?」
「ちょい、ちょっと俺タイプかも」
「お前あーゆう子昔から好きだもんなー」
「うっせー!」
と隣の席の男子から聞こえてくるんだけど。気にしない気にしない。
「あれ〜及川君じゃん!」
「あぁー、久しぶり」
アレ、誰だっけこの子。一応社交辞令として曖昧な返事は返しておいたが、この子の名前が思い出せない。
「またカッコ良くなってるね…!私、彼女立候補しちゃおっかな〜?」
またってなんだろ。俺はこういう生半可な告白は受けないことにしてるし、なんとなくこの子は生理的に受けつかない。
「それじゃあ私も立候補する!!」
「私もーーー。」
女の子がそう言ってから周りの女子がどんどん湧いてきた。
どうしよう。なんだかめんどくさくなってきた。いや、まず君たちの名前知らないし。
ちょっと困っている時、勢いよく教室のドアが開いた。担任のセンセ、本当ナイスタイミング。
「皆、席に着いて!私は今日からあなた達の担任になりました」
ほほぉー、担任の先生は女で若々しい。可愛いっていうより綺麗系?
今年はなかなか良い一年を過ごすことができそうだ。
「さっそくですが学級委員を決めます!」
自己紹介もなしに学級委員を決めようとする担任。どう考えても急すぎるデショー。多分新人だな。やる気満々なのはいいが、学級委員長を決めるのはもっとクラスが打ち解けてからではないのか?
「やりたい人はいますか?」
普通に急すぎて考えていないだろう。俺は絶対そういう堅苦しい仕事はしたくない。
「はーい!答辞読んだ人が良いと思いまーす!!」
大声で叫ぶちょっとケバい女子。きっと女子の中ではリーダー格で、逆らうと厄介な奴だと言えるだろう。それくらい男の俺の目にだって分かる。大凡、自分よりできた人間の名前ちゃんを妬んでいるのだろう。岩ちゃんよりたち悪いぞ!
「いかにも学級委員ぽいじゃん!」
さすがの俺でも苦手なタイプだ。俺は呆れた様子で頬杖ついて見てた。可愛い子ではあるが、俺は助けるつもりはなかった。面倒ごとに巻き込まれたくないし。
「苗字さん、学級委員頼んでもいいですか?」
『私…、ですか?』
うおー、名前ちゃんが困ってる。やっぱり助けてあげた方がいいのかな?なんか俺が特に何をしたわけじゃないけど罪悪感。
『うーん、分かりました。やります。』
おぉ!とクラス内で歓声が上がった。名前ちゃんが渋る事を予測していたであろうケバい女子は悔しそうな顔をしていた。やっぱ女子っていろいろ怖いよねぇ。なるべくかかわりたくない。
それにしても名前ちゃん根性あるな。この時の俺は、名前ちゃんの印象がとてもいいものになっていた。