道のり


中学三年生。

バレーでは全中をかけた最後の戦いが始まろうとしていた。強敵である白鳥沢を今度こそ打ち負かそうと躍起になって部活に取り組んでいた。
バレーのみではない。他の部活も大量の汗を流しながら切磋琢磨している。

3年生は最後の舞台。今までの集大成を存分に発揮する場である。特に強豪校となればそれは顕著になる。負けたくないという思いが人を何倍にも強くする。

泣いても笑っても"最後"は覆らない。

だから徹君は、勝ちたい一心で自分を極限まで追い込む。追い込んで追い込んで体を駄目にしちゃう時だって何度かあった。そのストッパーを岩泉君と一緒に行っている。


私たちの話はさておき、私達バレー部に新入部員が数人入部してきた。一応強豪校の名前を県内に知らしめている北一としては、ピカリと光るスーパー選手が欲しいところだった。

その中でも、将来有望そうなのが影山飛雄君だ。国見君や、金田一君をはじめとした一年生も筋はあるが、影山君は天性の才能とでもいうように上手だ。

1年生でこれくらい出来るのだから、2年後はもっと凄いことになっているだろう。

しかし問題は、影山君が徹君の脅威になりうるということだ。まだまだ実力差はあるが、成長すれば分からない。影山君は感覚でこなしているけど、徹君は努力でそれを補っている。ある意味対称的な2人が戦う立場に立つのを想像できない。

「名前先輩」

しかし影山君は可愛い後輩。こうして話しかけられると思わずにやけちゃうほど嬉しい。私はニヤけたくなるのを抑えて、正面を向いた。

『ん?』
「ボール、適当に上げてもらってもいいですか?」

ボールを両手に持ちながら話しかけてくる彼は、バレーが純粋に好きだと思うほどに目が輝いている。こんな純粋な時代が徹君にもあったのかな。考えてみたら、徹君と影山君はどこか似ていた。1年生の時の徹君は本当にバレーが好きそうだった。今も好きなんだろうけど、ただ純粋なものじゃなくて、もはや体に染み込んでいるような好きだ。

『うん。いい……』

昔を思い出しながら、再び影山君に意識を戻した。断る理由もないし、それで技術が向上するのなら何ら問題のない事だ。私が影山君からボールを受け取ろうとしたその時だった。

「飛雄、それは別の人に頼んでくれる?」

彼と私の間を埋めるように入ってきた徹君。思わず驚いてしまって、声をあげそうになった。

「?どうしてですか?」
「名前ちゃんはこれから俺と練習するの」

果たしてそんな約束をしていたかは定かではないが、徹君の考えている事はなんとなく分かる。多分嫉妬してくれてるんだと思う。しかし、このままではいけないと思う。徹君と一緒にいる事ができるのは嬉しいが、こうもベタ惚れされると恥ずかしい。

『えっと、影山君。今回はごめんね。また次、ボール出しさせて?』
「分かりました」

影山君は聞き分けがいい。ペコリと礼をして別のところに行ってしまった。なんだか申し訳ない気持ちもあるが、まずはこの不機嫌さんをどうにかしなければならない。

「…名前ちゃん、大人気ないのは分かってるけど、飛雄にも渡したくない」

徹君はいつだって私を大事にしてくれる。例えそれが過度な愛情だとしても私は嬉しい。

『そう思ってくれるだけで嬉しい…。でも私は何をしなくても徹君の側から離れないよ?私も徹君が大好きだから…』
「名前ちゃん、可愛すぎ!!」

そのやり取りを見ていた部員たちは遠い目をしていたという。

しかしそんな周りの目を気にしない及川カップルは自分たちの世界に入り込んでいた。もはや2人の仲を引き裂こうなどという考えはあってはならないという暗黙の了解があった。それ故に、男子生徒が彼女に話しかける時はいつでも慎重だった。

しかしこれはバカップルになる段階の一つでしかなかった。

誰もが羨むような恋人になるまで、あと数年。