響きあう
いざ、中に入ってみるとバスケ部や卓球部、バレー部なんかが練習していた。いろいろなボールや、球の音が混ざり合って不協和音を織りなす。
「うっわー、広!」
『そうだね、大きい!』
今、体育館の入り口付近で練習しているのはバレー部だ。友達から聞いたり、説明会の時に聞いた話によると、北一のバレー部は県内でもかなり強いのだとか。そうなると当然練習もキツくなってくるだろう。
「あ、名前ちゃん。それに、柚愛沙ちゃんだよね?」
知り合いがいるはずもない体育館で急に名前を呼ばれ、体が硬直した。ちなみに柚愛沙ちゃんとは私がゆんちゃんと呼んでいる子である。
話しかけてきたのは同じクラスの及川君だ。
「俺、同じクラスの及川だけど分かる?」
『うん、及川徹君だよね。もちろん知ってるよ。』
分かるも何も、彼は新入生ながらも既に有名人。
私が今この人を見て思うのは、凄くカッコイイということ。クラスでも断トツ一番でカッコ良くて、多分女の子の大半が及川君に釘付けだったと思う。10人いたら恐らくほぼ全員が彼の容姿を褒め称えるだろう。
そんな人が何故私達に話しかけてきたのだろう。それはあくまで同じクラスだからと言うことだろうか。というか、もう名前を覚ているなんて、彼は相当記憶力がいい人なんだ。私は仮にも委員長だし、覚えられて当然と言ったら当然の事なんだろうけど。ゆんちゃんはやっぱり、可愛いからかな?
「せっかくだしさ、二人ともちょっとバレー部見ていってよ。」
『でもここって男子バレー部だよね?』
「んー、マネとかどうかなって思ってるんだけど」
そう言われて私の心が揺らぐ。実は、小さい頃から好きなスポーツの一つでもあるバレー。それはテレビの影響があり、テレビに映るバレーボール選手、烏野高校に在籍していた"小さな巨人"が未だに忘れられないのだ。そもそもバレーはルールなんて全く知らないけど。
「ちょっと見ていく?」
『…そうだね。ちょっとだけ見ていこうかな。』
「よし、じゃあ決まりー!」
調子良く事が進んで、及川君は私たちをベンチに案内してくれた。
私は及川君の隣で静かにバレーを見ていた。
外面上は静かに振舞っていても、内面のドキドキは収まらない。だって、隣にカッコイイ男の子がいるんですもの!
『お、及川君は、バレー部に入るの?』
「ん?」
彼は私の話が聞こえなかったのか、目線を合わせて質問を聞き返した。練習中にはボールの弾む音や打つ音で声が聞こえなくなることがしばしばある。
『及川君は、ここでバレーをやるの?』
普段、男の子と会話する機会の無かった私は、聞き返された事に焦り気味になって言葉を少し変えて言う。すると、彼は目線を外に見える桜の木に移して、どこか固い決意の篭った眼差しを持って強く頷いた。
「もちろん。バレーするために、ここに来たようなものだからね」
彼はよく顔を見なければ判らないくらい、ふっと微かな笑みで答えた。それは印象を一変させるくらいの柔らかい笑みだった。彼のその姿を見て、夢に向かっている人物というものを間近で初めて見た気がした。
私たちが通っている北一のバレー部は、全中などの全国大会でも名を馳せる中学校だったと言ったが、運動に自信のあるツワモノが大勢集まる中で、自分の体を資本とするようなスポーツに賭けて来る者は相当な覚悟が必要だと思う。
私は先ほども言ったようにバレーの経験はなく、見ていてもさっぱりルールが分からない。それを及川君は、横で丁寧に教えてくれた。彼は今日仮入部ということで練習を見学しているらしい。ポジションのことや、それぞれの役割なんかを初心者の私でも分かりやすく教えてくれたお陰で、今日、ちょっとだけバレーを知ることができた。
『今日はありがとう、及川君!』
「いいよいいよー。それで、二人ともバレー部のマネになる気になった?」
『私自身はとってもいいなって思ってるんだけど、親がなんて言うか分からないなぁ。』
「私も、親に聞いてみないとな〜。」
うちの親は案外普通に承諾してくれそう。ゆんちゃんの両親も多分了承してくれるだろう。
「そっか〜。じゃあ名前ちゃんと柚愛沙ちゃん自身は入りたい意志があるってことだよね?」
『うん!そりゃもう、バレーって凄いなって思ったから!』
「私も」
「それを聞けただけで嬉しいよ!」
そうか、及川君は本当にバレーが好きなんだなぁ…。