束の間のしあわせ
「こっちに来ないで欲しいっス」
『それはこっちのセリフだよ』
そう私たちは互いを嫌悪し合う。
「あーあー、またケンカしてる」
「ほっんと飽きないよねあの二人」
そう、私たちは仲の悪い事で知られている。
私の喧嘩相手は黄瀬涼太。
学校で一番有名な生徒と言っても過言ではない男。何故ならば、彼は今をときめくモデルだからだ。
整った顔に引き締まった体躯、そして人を笑顔にさせる性格ときたもんだ。非の打ち所と言ったらちょっとばかりしつこい所と、頭がさほど良くない事くらいだ。
そんな彼がこの海常に来ると聞いた女子達の歓声が心の中で思い出される。みんな喉が枯れるほど叫んだんだろうなぁ…。しかも同じクラスになったと知った女子達の悲鳴にも似た黄色い声援には思わず耳を塞いだものだ。
でも、私たちは同じクラスになってからずっとこの調子で。
目が合うたびお互いにケンカをうっている。それを無視することなく受けて立つというのもお決まりだ。
馬鹿にしたり、蔑んだ目で見たり。とりあえず他所から見たら普通の男女の関係ではないのだ。
それを呆れた感じで見ているのはクラスの生徒。
クラスのみんなは私達が相当仲が悪いように見えるかもしれない。
でも、本当は…………。
「名前〜、ごめん。俺全然あんな事思ってないっスよ!」
『私の方こそあんな事言ってごめんね!』
実は私たち秘密で付き合っているんです。
『本当は大好きなんだよ!』
「俺もっス!あー名前可愛すぎ。」
今は、久しぶりに部活が休みみたいだったから涼太君の部屋に来ている。
そして私は涼太君の足に挟まれながら座っている状態。一方の涼太君は私の頬に自分の頬を当ててスリスリしている。
普通からこんな状態を曝け出していたらバカップルと言われそうだ。それもしょうがない。
二人の時間があわなくて中々二人きりになるチャンスがないのでイチャイチャできるのはこの時間しかない。本当は学校でもこうして話したりしたいけど。
何故学校で付き合っている事を公にしないかというと、学校でバラすと陰湿な涼太君のファンが私を虐めるんじゃないかと考えたから。
だから学校では気づかれないように仲の悪いフリをしていようと、お互いに決めたのである。それでも涼太君を否定したり罵倒したりするのは心が凄く痛くなる。
たまに泣きそうになることもあるけど二人が安全に付き合っていくにはこれが最善の方法だと思っている。だから文句も愚痴もこぼせない。
私は今のままでも十分に幸せだから。