時間の問題
出会いは至って普遍的だった。
高校三年生。とうとう部活も終わった頃、母が家庭教師を雇った。このままの成績では自分の望む大学には行けないことが判明し、塾よりも、こうして一対一で勉強の指導をしてくれる家庭教師を頼んだ。
今日はその先生との初対面の日。女の先生だったらいいなぁとか、もし男の人でも優しい人だったらいいなぁとか。勉強机に対面して、椅子に座ってソワソワしているとインターホンが鳴った。
椅子はギシリと音をたてて、緊迫感を際立たさせる。心臓に手をあててみると、鼓動が早まっていくのが分かった。母親が私の部屋に案内しているのだろう。母親と雑談しながら階段を登ってくる家庭教師の人がいた。声が低い気がするけど、まさか男の人?手にジワリと汗が染みる。
トントン。
控えめに扉をノックされ、私は自ら扉を開けに行った。
「はじめましてー。」
『は、初めまして!』
扉を開けた時立っていたのは、見上げなければ顔が見えないほど長身の人。おまけに超絶イケメンという容姿。ドキドキは脳まで響くようになった。か、かっこいい…!
『ど、どうぞ中へ』
「おじゃましまーす」
緊張がMAXになって、物を触る手が震える。母親からお菓子やら飲み物やらを受け取って、部屋の扉を閉めた。及川徹さんはこういう場面を何度も繰り返しているのだろう。緊張した様子はなく、寧ろこういうのは慣れている感じ。
「まずは自己紹介から!俺は今日から家庭教師になった及川徹です」
『苗字名前です』
緊張しすぎて声も震えそう。
「んー、ほらリラックスリラックス!そんな気張ってても良いことないよ」
言われた通りだ。家庭教師がイケメンだったくらいで怯んでいては体が持たない。平常心平常心……。
「実は女の子の家庭教師なんて初めてなんだよねー」
『そうなんですか?』
「うん、だから俺もちょーっと緊張してるよ」
『ふふ、そうは見えません』
「えぇー、そう?」
笑顔でいてくれるし、私のペースに合わせて話してくれるし、なにより話しやすい。こういう会話術って日頃培ってるんだなぁ。
「よし、じゃあお互いを知った事だし、ボチボチ勉強を始めて行こうか」
『はい!』
出だしは好調だ。このままだったら嫌に緊張せず、勉強に集中できそう…!とまぁそんな安寧な考えをしていたのが間違いだった。
「名前ちゃんは何の教科が苦手?」
『数学がちょっと…苦手です』
「女の子って割と数学苦手な子多いよねー。男の子は国語とか苦手みたい」
『へぇ…、あ、でも国語は結構得意です』
「おぉ、じゃあ数学を重点的に教えていくね」
『はい!』
私が一番何にびっくりしたって、及川徹さんとの距離だ。彼は私の直ぐ後ろに居て、数学のドリルを見つめている。大事だから二回言おう。あくまで数学のドリルを見つめている。声が耳元で聞こえてる気がして、こそばゆい。心臓も早く脈打ち、破裂しそう。誰だ、緊張せず勉強に集中できそうとか言い出したの。
「こらこら名前ちゃん、集中だぞー」
この人、私が貴方が近すぎることに対して緊張しているの分からないのか?もしかして家庭教師ってこんなもの?
私が彼を異性の男性として好きになるのは時間の問題だった。