こんなに素敵なんて
試験監督の先生の指示に従って机の上に鉛筆を置く。鉛筆を問題用紙に走らせる音と凄まじい緊張感に支配されていた室内の空気が、瞬間的に軽くなったと感じたのはきっと私だけではないだろう。
解答用紙の回収が終わり、漸く室内がざわめきで満たされる。全ての教科が終わって一段落だ。ぐっと背伸びをすると軽くポキポキと身体の関節が鳴った。
センターが終わった。まだ気も抜けないけど、取り敢えずひと段落だ。
試験会場は常温だったから、普通の格好で受けることが出来たが、外は寒い。服を着込んで、顔が半分隠れるほどのマフラーを巻く。一人でとぼとぼ母が待つ外へ向かうと、そこにいたのは母ではなかった。
「名前ちゃん、お疲れー」
試験会場から出ると、私に向かって軽く手を上げる徹先生を見つけた。思いがけない人物の登場に目を見開く。聞いてないよお母さん…!
私はそのまま棒立ちになっているわけにも行かず、同じ受験生達の波に押されて徹先生のところへと向かう。歩いていたはずが知らないうちに小走りになってしまった。冷たい外の空気に晒されたからなのか、それとも徹先生のせいなのか、ほのかに赤く染まった頬は幸いにもマフラーによって巧妙に隠されていた。
『どうして徹先生が…?』
「名前ちゃんのお母さんに頑張ってお願いしたんだよ」
『………嬉しい』
赤く染められた頬に、涙が伝う。徹先生がその涙を綺麗な指で拭ってくれる。
「…寒いでしょ。おいで」
頑張ったね、といつもより甘い声が頭上から落とされる。頭を徹先生の胸板にくっつけながら、思考は停止した。そんなことされたら、期待しちゃうよ。期待してもいいの?分からない。徹先生は何を考えているんだろう。
「前さ、好きな子がいるって言ったでしょ?」
無言でコクリと頷く。その話をここでされるのか。
「その子は、一生懸命で、可愛くて、俺が初めて教えた女の子の教え子なんだ」
『……………!』
「言ってること分かる?」
何度も何度も頷く。振動が彼に届くようにと何度も。ギュッと目を積むって対応を確認する。
「ねぇ、こっち向いて」
素直に上を見上げると、私以上に頬が赤く染め上げられた彼が綺麗に微笑んでいた。寒さなんてどうでもいい。彼が欲しい。マフラーを慣れた手つきで巻き取られて一瞬で距離がゼロになる。
『徹先生、好きです』
「俺も、大好きだよ」
想いが通じ合った時ほど嬉しいものはない。今まで悩んでいたことが嘘のように吹き飛んだ。