つい甘やかしてしまうんだ
俺の幼馴染と呼べる存在の少女は少し厄介だ。
名前。
彼女は俺の家の隣に住んでいる所謂お隣さんというやつだ。気づいたときから俺の隣にいた女の子。
幼稚園も小学校も一緒。中学校も高校も今の今まで一緒。クラスは違えど接点は多かった。
両親同士の仲は中々ないほど良好。
こんなにも関係があって、幼馴染という他はないだろう。彼女にもその自覚があるようだ。
寧ろありすぎるのだ。
そう、彼女は俺に依存している所が多々ある。
俺を好いてくれるのは嬉しいし、求めてくれるのも嬉しい、がそれでは将来彼女がうまくいく保証がなくなってしまう。
将来、彼女の近くに俺がいるかどうか分からないからこそ、今の彼女の状態を危惧している。俺だっていつまでも彼女を甘やかしてやることはできないのだ。
名前に友達がいないとは言わない。寧ろ女友達はいる方だ。
問題は男友達の方である。男性恐怖症とまではいかないだろうけど、少し苦手意識を持っているようで、現在に至るまで男友達はほぼいない。よくしゃべる相手と言ったら俺くらいのものだ。
そろそろ彼女も自立しないとまずいのではないだろうか。会社に入社するときだって、将来のあらゆる場所に男はいる。それは間違いなく言える。出かけるならば男を目にしない日などないと言って等しい。社会に出たときに俺が隣にいるとは限らない。
しかし、ここにまだ問題が存在する。
それは、彼女が俺の近くにいる限り、知らず知らずのうちに甘やかしてしまうことだ。そこに頭があれば手を置くし、彼女が笑えばその日の調子はなんとなくいい気がする。気のせいと言われてしまえばそこまでだが。
結局はどんなに考えても俺と彼女の縁はきれない。
高校1年になって一週間が経つが、朝だって毎日一緒に登校しているし、クラスが違うため、教科書を忘れたら真っ先に借りに行く相手だ。勿論、俺が教科書を貸す側だ。依存を脱却させるにせよ、この上なく厄介な条件が見事に重なってしまっている。
今まで散々言ってきたが俺が彼女から離れることはしない。俺にそんな勇気はない。もし別れるならばそれは彼女から拒絶されたときだ。拒絶されるほどの大きな事件はないかもしれないが、いつか少しずつ俺から離れていくのだろう。
俺たちは将来を約束した中でも、恋人同士でもない。2人の間にあるのは幼馴染という名前だけ。これまでそれに不自由してきたことはないから、その関係に甘えていたのかもしれない。
『京治君、ボーッとしてるね』
「…ちょっと考え事してた」
『ふっふっふ、私には分かるよ。京治君が考えてたこと』
「…………。」
『何その目、冷たい……。』
なんてノリも彼女にとっては俺だから出来ることで、他の人にはこんな姿見せてこなかったんだろうと思うと、ちょっとした優越感に浸れる。
「それで、何を考えてたと思う?」
『ズバリ、バレーのことでしょ!』
えっへんと鼻高らかに語る彼女。最近よく思うことだが、名前は木兎さんと性格がよく似ていると思う。自信満々に的はずれなことを言うときもあれば、まっすぐ胸に突き刺さるような言葉をかけてくる時もある。それに、なんというか扱いやすい。端的に言えば単純。二人の行動などだいたい予想できてしまう。感情が表に出やすい。憎めない。そこが木兎さんと名前の良いところなのかもしれない。
「とりあえず違うってことだけは言っておく」
『違う…?ん〜、そっか。じゃあもっと深刻なこと?』
「さぁ、どうだろう」
今後の俺にとっては重要なことに違いない。しかし言葉を濁して誤魔化す。まだ彼女に知られない方がいいと思ってしまった。
『京治君って時々難しいよね』
「そう?」
『うん。でもあまり悩みすぎちゃダメだよ』
そう優しく語りかける彼女に、思わず表情筋が緩んだ。名前と一緒にいると落ち着くし、無駄な気を張らなくてもいい。彼女の隣が、俺が素でいられる場所だ。そんな場所を自ら手放そうとしてる自分がバカバカしくも思えてくる。
「分かってるよ」
きっと自分の名前を呼ばれて一番心地良いのは彼女の声だと思う。こんな事を考えているから、いつまで経っても甘やかしてしまうのだ。