どんな人生にも変化はある
『そういえば最近バレーはどう?』
「先輩達もいい人たちだし、楽しいよ」
『おぉ、それは良かった』
俺は他の生徒より一足早く部活への入部届けを出した。俺のように中学の時から推薦を貰い、部活を決めていた人も多いだろうけど、まだ心機一転の地で、心が決まっていない人も多いだろう。
彼女もそのうちの一人だ。
中学のときは確か女子しか部員がいない家庭科系の部活に入っていた。部活で作り上げた甘さ控えめのクッキーやマフィン、その他様々なものを作って俺にくれていた。俺はありきたりに美味しいしか言えなかったけど、名前は俺に食べてもらうことに意義があるんだよ。クッキーも京治君に食べられたがってたし。とか訳のわからないことを言っていた。いつしか彼女が作るお菓子を楽しみにしていた自分がいるのは否定できない。
名前は高校でどんな部活に入るんだろうか。もちろん梟谷にもそういった家庭科系の部活はあるし、一番入る可能性が高いのではないかとさえ思っている。それ以外に入る部活などないに等しい。
『そろそろ部活勧誘が始まるね。京治君みたいに速攻で部活決めちゃった人もいるみたいだけど、これからが本番だよね!』
俺の頭とリンクしたのか、部活勧誘について話し出した。
「名前は部活決めたの?」
『まったく決めてないよ。せっかくだし色んな所回ってみたいなって』
とはいうものの、結局は女子限定の部活なのだろう。それに彼女は運動があまり得意ではない方だから運動部はまずない。楽器も吹けないから吹奏楽もない。候補と言ったら合唱部か美術部、そして家庭科系の部活。アクティブにワンダーフォーゲル部と言いだしたらどうしようかと思っている所だ。それも彼女が入りたい部活と言うならば仕方がない。無線部は彼女の分野ではない。やはり合唱や美術部らへんがいい所だろう。この中であれば、俺はどれでもいいと思う。
『って言ってみたけど、実はちゃんと候補があってね。美術部と、合唱部と、あとお料理ができる部と…』
やはりそうか。長年一緒にいると、彼女の考えていることは大体わかってくるものだ。
『あと、マネージャーの仕事とかいいかな、って』
「マネージャー?」
『うん、野球とかバスケとか憧れる!サッカーは競争率が高そうだからやめておくけど、ラグビーとかバトミントンとかもいいと思う…んだけど…京治君?』
次々と挙げられる部活の数々に内心唖然としながら聞いている。…ここまできてなぜバレー部がない。
まずそれは置いておいて。
「なんでマネージャー?」
彼女はど直球に言葉を伝えないと伝わらないことが多い。知っている。それは小さい時からそうだ。
名前はこんなにも男に苦手意識をもっているのに、急にどういった心境の変化だろう。
『やっぱりこのまま京治君に甘えてちゃ成長できないと思って…!自分一人でもいろいろ出来るようになりたいから。』
なるほど、そういうことか。彼女は自ら克服しようとしているのか。…しかしなんだか面白くない。この前まで彼女に自立して欲しいと言っていた奴の考えではないかもしれないが。
「あと、なんでさっきバレーって言わなかったの?」
『バレーは…その…えっと、京治君が近くにいると、…どうしても甘えちゃうから。』
名前はそう言った。今まで待ち望んでいたはずの言葉なのにさっきから忙しなく心臓が動いている。
これは喜びの鼓動だろうか。…いや、喜んでいるならばこんな動き方はしない。つい胸を押さえ込んでしまいたくなるほどの大きい動きに、少し息が苦しくなった。
彼女が離れていってしまう。
「そっか」
頑張れも言えない。俺はこの事実をどう受け止めているのだろうか。自分でもよくわからない。分からない自分を腹立たしく思う。
『うん。京治君にはすっごく感謝してるよ』
名前があまりにも純粋に言葉を発するから俺の方はこれ以上何も言えなくて。
ただ、これからどうすれば良いのかさえも分からずにいた。あまりの出来事に俺の頭は正常に稼働していないらしい。
『だからね、もう京治君は自分のことだけを見て欲しいの。京治君は今まで私にかかりきりだったから負担も大きかったと思う。けど私が自立したら、きっと京治君は今まで以上にのびのび出来るよ!京治君は大好きなバレーと向き合う時間だって増えるし、私は将来のために自立できるし、一石二鳥だね』
そう笑う彼女に段々心が落ち着いてきた。彼女が自分で決めたことならば、俺はそれを見守るだけじゃないか。何も難しいことなんてしていない。確かに、本格的にバレーに打ち込みたいし、時間が欲しい。
これで良いのだ。
そう無理に言い聞かせている自分がいた。彼女が隣にいない日常。一体どんな風なんだろうか。今まで経験したことがないから分からない。でも、俺もこの状況に徐々に慣れていかなければならないのだろう。