幼稚園
私たちは幼馴染だった。
物心がついたころから聖臣は私の近くにいた。
彼は小さいころから物静かな少年だった。反対に、私のほうはというと年相応に活発に遊びに励んでいた。
性格は真反対なのに、なぜか息があった。彼の隣は幼心にでもわかるほど心地よかった。
そんな私と彼の間にはたくさんの思い出がある。
それは私たちが幼稚園の時の出来事であった。
男子が積み木遊びやブロック遊びをしている時間に、私は何人かの女の子友達と恋バナで盛り上がっていた。
我ながらなかなかませていたと思うが、鼻水を垂らして走り回っているよりはずっとマシだ。
「私はだい君が好き!」
「えぇーあたしはかいと君かなぁ」
話しているうちに互いに好きな人の暴露大会が始まったため、私も好きな人を思い浮かべてみた。すると、ある人にたどり着いた。いつも優しいあの人だ。
「名前ちゃんは誰が好きなの?」
『私はゆうし先生が好き!!』
幼心を擽ったのは担任の先生であるゆうし先生だった。男の先生であり、大人のゆうし先生がやることは全てかっこよく見えた。冷静に考えればそれは憧れによる想いだったことが分かるが、幼いが故にそれを恋だと思いこんでいたのだ。
私はまだ恋を恋として認識していなかったのだと思う。
「えぇ〜、聖臣君だと思ってた」
「うんアタシも!だって仲良しなんだもん」
周りから見ても私と聖臣は仲が良かったようだ。
確かに、小さい頃からずっと一緒にいたため、人より仲良く見えるのにも納得がいく。だが、その時はゆうし先生が好きだった。
『でも、ゆうし先生が好き!!』
「ちょっと分かるなぁ、ゆうし先生優しいしかっこいいもんね!」
話題はすっかりゆうし先生に染まった。暫くその話をしてから、お話し好きの私たちの話題は先ほどの話がなかったかのように変わっていく。
そして、時はあっという間に流れ、お迎えの時間がやってきた。お母さんのお迎えを待つ私は、同じくお迎えを待つ聖臣君とお喋りをしていた。お喋りと言っても私が一方的に話題を提供することが多い。
今回の話題はゆうし先生についてである。聖臣にもゆうし先生がいかに素晴らしいを知ってもらいたかったため、長々と魅力を語り始めた。その時、話をするのに夢中なっていた私は、聖臣の表情なんて見向きもしていなかった。
『あとね、ゆうし先生は……』
「おい」
せっかくいいところだったのに、邪魔された。他でもない聖臣にである。
「ゆうし先生が名前のこと好きなわけないだろ」
聖臣の言葉が、一瞬にして私の心を傷つけたことは未だに覚えている。
『なんでそんな事言うの!?』
「見てれば分かる」
今までは聖臣が言っていることは全て正しいと思っていたから、その言葉を真に受けてしまった自分がいた。
『じゃあ先生のお嫁さんになれないのかなぁ…』
急に寂しくなった私は、誰から見ても分かるほどに落ち込んだ。普段は見せない悲しげな表情で、あからさまに落ち込んでいる私を見た聖臣は、逡巡ののち、ぶっきらぼうに話し始めた。
「…俺がいるだろ」
『え??』
「だから、俺と結婚すればいいだろ」
『聖臣と?』
「…それ以外に誰がいるんだよ…」
そっぽを向いた聖臣は、全くこっちを見ようとしない。私はなんだか嬉しくなって、勢いよく返事をしたのだった。
『うん、聖臣と結婚する!!』
そして同時にギュッと抱きついた。抱きつくという行為は、いくら幼馴染とはいえ、頻繁に行われることではなかった。
「あーー、名前ちゃんが聖臣君に抱きついてるー!!」
「夫婦だ夫婦ー!!」
その時はよく分からなかった、周りの園児たちに茶化され、赤面した。いつもなら茶化されることを嫌う聖臣が、この時ばかりは無言で、不満もなさそうだった。
この時のことを聖臣に問うと、覚えてないの一点張りである。