一学期は早くも二日目に突入した。
『おはよ〜、マコ!』
ハルの家の前まで迎えにくると、丁度マコと鉢合わせした。マコのことだから私と同じように迎えに来たのだろう。決してハルの家に行こうと2人で示し合わせたわけではない。ずっと一緒にいると思考回路まで似てくるのだろうか。
「おはよ。名前もハルを迎えに?」
『勿論!新学期早々不良になられちゃ困るからね』
「ハハ、そっか。じゃあ行こっか」
『うん』
小さい頃からの慣れでズガズガとハルの家に入って行く。もうこれは慣れてしまったのだから仕方が無い。きっとハルにとって家族みたいな存在だから決して不法侵入ではない(ハズ)。
ハルの家に来ると、彼がいる場所は大体決まっている。しゃーない。マコがお風呂場に迎えに行ったみたいだから、私は鯖でも焼いてるか。と思って冷蔵庫を物色し始めた。
中には鯖と牛乳。後はちょっとの食材。
生活感なんて皆無とも言える冷蔵庫には毎回驚く。しかし、鯖は必ず常備しているものだから、そこらへんはちゃっかりしていると言える。
冷蔵庫の中身に驚く度に、私とハルは買い物に出かけて食材を調達しに行ったり、私が作ったご飯を食べさせたりする。私もまだレシピを見ながら作ることしかできないが、ハルのおかげでその腕は年々上達している。ハルは、何も言わずに無言で食べるのでちょっとくらい感想が欲しいと思ったりして。いや、これは完全に自己満足でやっているわけだから、そこまでは求められない。
ほとんど何もない冷蔵庫から鯖を出すと、水着姿のハルがタオルで髪をゴシゴシと荒く拭いている。やっぱりかぁ。朝っぱらからお風呂に入ってた。
『ハル、タオル貸して』
「……ん」
大人しくタオルを差し出してきたので、そのまま椅子に座るように指示する。そして私はハルの頭を拭くのだ。何故かわからないけど、こういう時はかなり素直だ。
マコはいつもそれを微笑みながら黙って見ている。
『そんなに荒く拭いたらハルの綺麗な髪が傷みますよー』
「……どうでもいい」
『良くないって!私ハルの髪好きなんだから』
プゥっと頬を膨らませると、それを見たマコがクスクスと笑っている。そして頬を軽くつついてくる。口の中の空気はそう簡単に出てきません!
***
大人しく学校に行く準備をしているらしいハルをマコに任せて、家の外に出てきた。
今日はあの子いるかな?と周りをキョロキョロすると簡単に見つかった。
「ニャー、ニャー」
愛くるしい仕草とつぶらな瞳に毎回ノックアウトされる。鈴がついていないので飼い猫ではないのだろう。まだ生まれたばかりの猫らしく、母親は周りに見当たらない。でも、こんな猫達の成長力は凄まじい。半年もすれば立派になっているものだ。
マコと私はたまにこの猫に餌をあげているのですっかり懐かれてしまった。それにハルにも懐いているので、この子は人に慣れているみたいだ。
そう言えば昔からハルは動物に懐かれてたなぁ。近所にいたよく吠える大型犬が怖くて、訳もなくハルを呼んでどうにかしてもらおうと思ったら、その犬をすっかり手懐けてしまったのだ。
ハルには動物を引き寄せる何かがあるのだろう。そういう体質ってすごく羨ましい。
近くにあった猫じゃらしを一本とって、上下左右に揺らして見た。すると、その動きに合わせて子猫は動き出す。その様子が、また堪らなく可愛くてもっと猫じゃらしを動かす。
その猫としばらく戯れていると二人は家から出てきた。
『ハル!マコ!ほら見て、可愛い!』
猫じゃらしで戯れていた猫を抱き上げて見せると、
「名前も猫みたいだね」
「あぁ」
『ないない!』
「あ、でもどっちかというと犬っぽくない?」
「まぁ、猫よりは犬だろうな」
自分で言うのもなんだが、確かに私は猫よりも犬に近い性格をしていると思う。
『そんなこと言ったらハルは猫で、マコは犬でしょ!』
「ハルが猫っていうのはなんとなく分かるけど、俺のどこらへんが犬なの?」
『んー、人懐っこくて、尻尾を振ってそうなところとか』
「俺に尻尾はないよ!」
こんな他愛も無い会話が私の幸せだ。
ハルは黙って聞いている時の方が多いけど、居心地は悪くなさそうだ。
それでもいつも考えるのは、なんで近くには凛君が居ないのだという事。彼が揃えば私の心はきっとすべて満たされるのに。
凛君の姿を想像すると浮かんできたのは、あの日のリレーのこと。もう一度あの時みたいなリレーを見たい。何度もしつこく思っちゃうくらい大切な出来事だった。
ねぇ、ハル。
もう一度水泳を始めてくれないだろうか。
そしたら、またあの時みたいなハルを見ることができるのにな。