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「小学校の時に通ってたスイミングクラブ、もうすぐ取り壊しになるって」


ある日の渚君の一言により、私たちは揃ってそのスイミングクラブに忍び込む事にした。なんて言ったって思い入れの深い大切な場所だ。

取り壊される前に一目でも見ておきたい。その思い出の地の最後をこの目で。


ハルは最初、来るのを嫌がっていたけど、マコの説得により結局行くことになった。なんだかんだ言ってハルもちょっとは気になってる癖に。


久しぶりに見たスイミングクラブは既に錆びていて、以前ほどの清潔さはない。
もうこんなに古くなったんだな。

時代の流れは早いものだ。
だけどあの時の思い出は今でも鮮明に覚えている。すごく大きく見えたロッカーもきっと今はそれほど大きくない。

私たちが夜にこの場所に出歩いてきたのにはもう一つ理由がある。それは私たちで埋めたタイムカプセルを掘り返す事だ。


あの日、リレーで優勝した時のトロフィーを埋めてあるのだ。そのトロフィーを見たら少しは私も前に進めるのかな?ううん、きっとまた、思い出に浸るように過去に戻っちゃう気がする。それでも前に進まなきゃならない。

『凛君いつ帰ってくるんだろうね』

ポタポタと夜露が滴るスイミングクラブの長い通路で、静かに言った。彼に会いたくて堪らない。

もし、オーストラリアに行ったのがハルやマコだとしてもきっと会いたくて堪らなくなるだろう。つまり、三人は私にとって大切な存在なのだ。


「………。」
「そうだねぇ。凛ちゃん、オーストラリアに行ったっきり見てないもんね。」

この中で渚君だけが、返事を返してくれた。きっと渚君だってあの時見た景色をもう一度見たいと思っているに決まってる。……これも、私の思い込みなのかなぁ。私だけが会いたがってるのかなぁ。

ちょっとだけ悲しくなっていると、ずっと奥に人の影らしきものを発見した。

『ね、ねぇ。あそこに誰かいない?』
「えっ、えっ!やめてよ」


なんだか、ここに入ってきてから久しぶりにマコの声を聞いた気がする。そう言えばマコはオカルトとかホラーは駄目なんだった。どうりで静かだったわけだ。

もしさっきの人影が私の幻覚だったら酷いことをしたな…。
っていうか幻影を見るってよっぽど危機じゃない!?私、実は霊感あった!?1人で勝手にパニックに陥る。

目を擦ってからもう一度廊下を見直すと、やはり明らかに人の影。

『ん、あーやっぱり人みたいだよ』


目を細めてよく見てみると分かったのは、体つきからして男だということ。こんな取り壊し寸前のスイミングクラブに用がある人なんているのか?まさか見回りの警備員!?だとしたら、私達は不法侵入で捕まってしまうかもしれない。

私は急に怖くなって、近くにいたハルとマコの後ろに行った。マコもハルにしがみついている。こういう時のハルほど頼れる人はいない。

ヒェェエエ!

怯えている間にも近づく足音。明らかになるその表情。

「まさか、ここでお前らに会っちまうとはなぁ…」
「「凛(ちゃん)!」」

全ての周りの音が掻き消された気がした。

凛…君?凛君なの……?
嘘、だ…。

私は彼の姿を見た途端、涙が溢れてきた。


だって、ずっと会いたかった凛君だもん。大きく成長していている凛君の姿は見違えるほど逞しくなっていた。だけど私は凛君だってすぐに分かったよ。

流しはしまいと必死に抑えていたので、ギリギリ涙は出なかった。記憶の中の凛君だったら泣き虫だな、なんて第一声が飛び交ってきそうだったから。

抱きつきたい衝動に駆られるけど今はそのような雰囲気ではない。

だって、凛君の雰囲気明らかに違う……。


「オーストラリアから帰ってきたんだぁ!」
「でもどうしてここに…?」
「きっとそれって運命だよ!目に見えない不思議な力が今夜この時間、僕たちをこの場所に……」

うわぁ、渚君メルヘンチック。でも私も神様が巡り合わせてくれたのだと思う。

「ハル」

ハルを呼ぶその声は格段に低くなっており、これも成長した証だ。その声色に私は体を震わせた。この人は、本当にあの凛君なの…?


「お前まだこいつらとつるんでたのか、…ハッ……進歩しねぇな」
「………そういうお前はどうなんだ?ちょっとは進歩したのか?」

ハルが珍しく言い返した。普段はこんな事なくて、何事もなかったかのようにかわしているのに。


「ちょうどいい、確かめてみるか。勝負しようぜ、ハル」
「勝負って……ハル!」

いきなり勝負を吹っかけられたハルは受けて立つと言わんばかりに、無言でスタスタとプールのあった場所へ向かった。


「僕たち、置いてけぼり?」
「……みたい」
「………待ってよぉー!」


まるで私たちなんか眼中にないくらい、凛君はハルだけをジッと見ていた。
私が小さいから眼中に入らなかったのかな?

まぁいい。今はあの二人を追おう。

嫌な予感がしつつも、私達は二人の後を追った。