凛君に会えて嬉しいはずなのに心から喜べない。彼は何が変わってしまったのだろうか?
雰囲気は完全に鋭くなっていた。オーストラリアで何かあったのかな。
そんな私の複雑な気持ちを知らない二人は、パッパッと服を脱いでいく。なんてスピードで脱ぐのだろう。仮にも目の前に女がいるというのに。
あまりのスピードになす術もなく口をあんぐりあけていると、マコが後ろから肩にポンっと手を置いた。マコの表情は困惑と不安が入り混じっていた。
不安なのは私だけじゃなかったらしい。早く勝負をしたくてウズウズしている凛君に対して、冷静さを保っているハル。全く反対の二人が勝負をしようとしている。
小さい頃の彼らの力は五分五分だった。
今はどうだろう。
オーストラリアに留学までして水泳を習ってきた凛君と、水泳を途中でやめてしまったハル。普通に考えても勝負は決まっている。
「いくぜっ!ハル!」
凛君の威勢の良さに緊迫する現場。
…でもちょっとまって。
このプール水ない………!
「レディ……ゴッ」
「水、ないね」
「だからやめとけっていったのに」
2人の雰囲気に圧倒されて、私も冷静じゃなかった。普通ならそんなこと当たり前のように気づくはずだ。
「ッチ」
凛君はわざとらしく舌打ちをした。……本当にどうしてしまったのだろうか。
本当にあっちにいる間で何かが起きた?以前とは性格が全く違うように感じる。瞳には強い信念と曲がらない心がある。それだけは以前とは変わっていない。
でも、今の凛君は、私の知っている凛君ではない。まるで別人のようだ。
「…そういや、お前ら。コレ、見つけにきたんだろ?」
「あ、トロフィー」
「俺はもういらねぇから。……こんなもの…」
絆で繋いだあの時のリレー。何よりも輝いていたあの時。
彼らが優勝した時のトロフィーを、簡単に凛君は手放した。まるでごみでも捨てるみたいに。私の中のかけがえのない思い出が音を立てて崩れ去るのを感じた。
マコが焦って取りに行こうとするも虚しく、それは叶わなかった。
音をたてて落ちたトロフィーには思い出がたくさんつまっていた。それをこんなもの扱いして手放すなんて……。凛君にとってはそんなに価値のないものだったの?私にはお金よりも大切な宝物なのに。
凛君は、確実に変わってしまった。
いつの間にか私たちに背を向けて歩き出した凛君。その背中が今は少し怖かった。今の私に、彼を追う勇気も度胸もなかった。ただ、静かに彼の背中を見る。
彼はもう、きっと私のことも忘れてしまっているのだろう。
それもそうかもしれない。一緒に泳いでいたのはマコとハル、そして渚くんであって私ではない。冷静に考えれば、私は昔から凛君にとってはただの部外者だったのかもしれない。
そっか、大事に思ってたのは私だけだったんだね。
ひどく痛む胸に、気づかないふりなんて出来そうになかった。私は自分の感情を律するように、静かに拳を握る。
私が望んでいた再会は、こんなにもあっけなく、虚しく過ぎ去った。