名前と付き合うフリを始めて、4か月は経っただろうか。ぶっちゃけ記念日とかそういうのはどうでもいいと思っている人間だから、いつ付き合い始めるフリを始めたのか覚えていない。

どうせそんなに長く続く関係でもないと思っていたし、それでいいと思っていた。


「なぁ、ヤス聞いてくれよ〜」
「あ?なんだよ」
「俺、苗字さんに告白したらOKもらえたんだ!」

言いふらしながら歩く男の声が廊下中に響いた。そのうるさい声デカ男に視線を送る奴もいれば、俺に意味深な視線を送る奴もいる。

…は?何言ってんだあいつ。

少し前まで肉食系男子とか草食系男子とか流行ってたけど、とうとう妄想系男子なんか流行っちゃってるわけ?


「お前、何言ってんだよ!苗字には彼氏いんだろ!?」
「馬鹿言え、俺が初彼だってよ。やりぃ!」


嘘だろ。そんな見え透いた嘘通用しねぇからな。大体お前ら俺を憐れみの目で見るのやめろ。俺は見せ物じゃねーぞ。舌打ちしたい衝動に駆られるが、周りに人間がいる手前なんとか堪える。

だいたい俺たちは別れていない。詳しく言えば付き合ってもいないが、そこは、今は問題じゃねぇ。俺は無性に腹がたっていた。嘘でも名前が別の男のものになったと想像するだけでフツフツと怒りが湧き上がってくる。

幸い俺たちのクラスの女子は、体育の終わりの着替えを更衣室で行っているためここにはいない。いや、これを幸いと言っていいのか。この場に居たらすぐに真実を問いただせたはずだ。

「お前、なんかの間違いじゃねーの?」
「だーかーら間違いじゃねーって。俺が告白したらOK貰ったぞ!前からイイ感じだってお前に言ってたろ?」

この時は、俺は自分がどんな表情をしているのか全く分からなかった。ただ眉間に以上にしわが寄っていたことだけは覚えている。イイ感じってなんだよ。名前は男と話すの苦手なんだぞ。そんなわけねぇだろ。まじで頭大丈夫かこいつ。

心の中でどんどん悪態がでてきてしまう。いつのまにかドス黒い感情が心を支配していた。

「…あ、そういや言ってたな。ってかお前、苗字さんて…」
「青城高校の苗字さんだけど」
「…んだよ紛らわしいな!先に言えよ!!!!俺てっきり…、嫌なんでもねぇ」

言っている途中で俺の存在に気づいたのか、出かけていた言葉をグッと飲んだようだった。どうやら俺と名前が公認の仲になりつつあるらしい。イライラしながらもその事実に気づき、少し怒りが収まる。

まさか名前が俺と付き合ったふりをしながら別の男と付き合うなんて、んな器用なこと出来るわけねぇって分かってたから、やっぱりなって思った。名前は報告もせず別の男と付き合うような不誠実な奴じゃねぇのは、この中で俺が一番よく分かっているはずだ。

ただ、やはり内心はビビってた。
とうとう名前にも男ができたんだなって。

それが違うと知った今、露骨に安心してる俺がいる。

たしかに俺はお互いに好きな奴ができたり、気になっている奴ができた時点で別れるという約束を交わした。名前もそれに賛成だったようだし、悪くない決め事だったはずだ。それなのに、俺は今更になってその約束を交わしてことに後悔し始める。

なんだ、俺。

いつの間にかこんな気持ちになるくらい、名前の事好きになってたんじゃん。

-いつのまにやら

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