「俺、好きなやつできた」


二人で昼ご飯を食べている時に、なんの前触れもなくそう告げられた。今、食べようと思って口に運んでいたミニトマトが、再び弁当箱の中に返っていった。食事とかそれどころではない。

『そう、なんだ』
「…名前は?気になるやつとかいねぇの」
『い、るよ。』


私がいないといっても、きっとこの関係は終わってしまう。二口君に好きな女の子ができたという事実はもう変わることはないのだから。どちらかが好きな人ができたら、別れる。そう条件付きで始まった恋人のフリ。今の堅治君の一言で、均衡が崩れていくのを感じた。

『どんな子か聞いてもいい?』
「…同じクラスのやつ。抜けてるけど、一生懸命で、まぁ、可愛い…」

彼の好きな子を想像しながら語っているのだろう。少し照れくさそうに目を逸らす。本当にその子の事好きなんだろう。同じクラスの子と言ったらすごく限られる。私は今後その子と一緒に過ごさなければいけない。自分が醜く感じるくらい嫉妬しちゃいそうだ。

「お前は」
『多分、失恋しちゃった』
「は?何、相手彼女いんの?」
『いないけど、好きな子いるんだって…』

たった今失恋してしまったなんて言ったらすぐバレてしまう。正直に言ってしまいたい気持ちを抑えて、なんとか飲み込んだ。もう、食欲はなくなっていた。失恋したと分かって気持ちは急降下している。

「なぁ、俺の好きな奴ってさ、時々すげぇ馬鹿なんだけど」
『…?』

好きな子に対して馬鹿だと言える二口君は大物かもしれない。

「今、多分勘違いしてると思うんだよな」

手首をつかまれて真剣に見つめられる。ここまでされて勘違いしない人はいないだろう。私は期待していいのだろうか。見つめられた瞳から目を逸らせずにいる。

「な?」
『それは、私失恋していないってこと…、でいいの?』
「どう思う?」
『わ、私馬鹿だから、言ってくれないと、分かりません…』

もしかしたら、私失恋していないかもしれない。そんな希望が湧き上がってくる。

聞きたい。次の言葉を。私がずっと欲しかった言葉を、今すぐに聞きたい。

「名前」
『はい』

真剣に名前を呼ばれて身構える。私と彼は同じ気持ちでいるのかもしれない。

「ばーか」
『えぇ!?ひ、ひどい!』

そして彼が言った言葉はあまりにも予想外だった。そんな言葉が欲しかったんじゃない。堅治君らしい言葉だけど、今は違う…!これでは不服だ。

でも言葉を待っているだけじゃ意味がない。私の気持ちも、今すぐに知ってもらいたい。

『私は、堅治君の事…す…』
「待って、やっぱ俺から言わせろ」

私が自分の正直な気持ちを伝えようとすると、彼はいきなり私の口を塞いできた。あまりの勢いに一瞬息苦しくなったが、そんなことは気にしていない様子だった。ちょっと女の子の扱いが雑である。

「……好きだ」

ちょっと不意打ちに近い形で先に気持ちを告げられた。でも、そのたった3文字が途轍もなく嬉しかった。その分心臓が大きく跳ね上がる。私は彼を好きでいていいんだ。両想いなんだ。

『私も、好きです』

少し前まで落ち込んでいた私が嘘みたいに気持ちが舞い上がっている。

「じゃあ今日でカレカノごっこ終わりってことでいいんだよな」
『うん。なんか恥ずかしいね』
「ま、俺、これからは遠慮しねぇから」
『お手柔らかにお願いします』

ちょっと意地悪だけど、実は優しい私の彼氏様は、私の頬を抓ってニヤりと笑った。

この表情も、きっと何回も見ていくことになるのだろう。


偽物から始まった恋だったけど、あの時私を救ってくれたのが堅治君だったことは、私にとってとても運が良かったことだ。今こうして、彼の傍にいられるのも、あの日の出来事があったおかげ。

これから先なにが起こるか分からないけど、今は堅治君が隣にいてくれるだけで満足だ。

堅治君に嫌われない限り、私はあなたのそばにいるつもりだ。だから、堅治君も私のことを離さないでね?

-離さないでよ

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