あの後、なんとかその場を乗り切って、放課後を迎えた。二口君は今日も部活があるらしく、颯爽と体育館に向かった。私の友達である舞ちゃんもバレー部のマネージャーということで、体育館に向かったんだけど、その前に、いつから二口と付き合ってたの?と茶化された。私は上手く返すことができず、得意の誤魔化しで核心を突かれずに済んだ。

そのあと私は家に帰って、のんびりしていたら、8時ごろになるとスマホの通知ランプが光っているのを確認した。

スマホを手に取って、画面をオンにすると、相手は今日連絡先を交換したばかりの二口君だった。

「勝手に名前で呼んじまったけど、大丈夫だったか」


なんとも律儀な内容だ。驚きはしたけど、一切不快な思いにならなかった。寧ろ心臓が跳ね上がるほどで。私は、その短い文章を何度も読み直して、返答を考えた。

『全然大丈夫だよ!寧ろ何回も助けてくれてありがとう』

たったこの文を送るだけでかなりの時間がかかってしまった。

「なら良かったわ。つーか、俺だけ名前呼んでんの不自然だから、名前も俺の下の名前で呼んだ方がいいと思うんだけど」

10分も経たないうちに返答がきて、その内容に少し戸惑う。言われてみればそうだ。世間一般的な恋人なら下の名前で呼ぶのが普通かもしれない。しかし、本当の恋人でもないのに呼んでしまっていいんだろうか。

『そうだよね、なるべく呼ぶようにするよ』
「なるべくとかじゃなくて決定事項な」

少し強引な回答だ。私はこれまで異性を下の名前で呼んだことがなかった。そんな機会も少なかったし、あったとしても恥ずかしくて呼べなかった。唯一親しい異性であるお父さんですらお父さんと呼んでいるのだから、急に呼べと言われても戸惑ってしまう。

『今まで男の人を下の名前で呼んだことがなくて、上手く言えないかもしれない。
もし、うっかり苗字で呼んじゃったらごめんね』

自分の正直な気持ちを伝える。これで少しでも彼が折れてくれるといいんだけど。

「苗字で呼んだら罰ゲームな」

彼は全く折れる気がないらしい。それにしても罰ゲームって小学生か…!なんか可愛いな。今ピンチに陥っているのは私のはずなのに、心のどこかで今の状況を楽しんでいた。

『具体的には?』
「パシる」

『ふふ』

内容も子供っぽくておもわず笑ってしまった。彼はとても面白い人だ。

『堅治君、堅治君、…堅治君』

明日うっかり苗字で呼んでしまわないように、何度も反復して彼の名前を呼ぶ。何度も呼んでいるうちに、少しずつ私の中でなじんできた。

この調子でいけばなんとか罰ゲームをやらなくてもすみそうだ。でも、彼のためなら購買で何か買ってくるのもいいかもしれない、なんて密かに思っている自分がいた。

-決定事項

prev|next