揺れる鼓動、二つの手


「赤星優さんですよね?!」
晴子に声をかけられ、洋平に名前を問われたあの日から、しばらく経った放課後。

体育館の出入口では、いつも誰かが練習を覗いている。
この日も晴子と並んで中を覗いていると――背後から、低い声が飛んできた。

「おう、優」

振り返ると、無表情のままの流川楓。
汗をかいた額を手の甲でぬぐい、いつもの淡々とした口調で名を呼ぶ。

「……久しぶり、流川」

そう返すと、彼の鋭い視線が一瞬だけ和らいだ。
「バスケ辞めたのか」

「……うん」

短い沈黙。
「そうか」
流川は小さく呟き、当然のように優の頭へ大きな手を置いた。
優しく撫でるでもなく、ただ確かめるように。

そのまま無言で踵を返し、体育館へ戻っていく。

「優ちゃん、流川くんと知り合いなの?!」
隣の晴子が目を輝かせる。

「男子の大会応援に行った時に、ちょっと面識があっただけだよ」
笑って答えながらも、胸の奥では別の感触が残っていた。

――今、なんで頭を撫でられたんだろう。

考え込む間もなく。

ふいに横から伸びてきた手が、優の髪をくしゃりと乱した。

「えっ……」

驚いて振り返ると、そこには水戸洋平。
彼自身も、まるで自分の行動に戸惑ったように一瞬黙り込み――低く呟いた。

「……悪ぃ」

流川が優に触れた瞬間から、胸の奥にずっと渦巻いていた違和感。
その正体は分からないまま、ただ手のひらの余韻だけが残っていた。
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