夕暮れに歩幅を合わせて
「優サン!今日はありがとな!」
校庭にボールの音を響かせ続ける花道が、汗まみれで笑って手を振る。
「……うん、頑張ってね。」
手を振り返し、優は体育館裏の道へと歩き出した。
校舎の影が長く伸び、風が少し涼しく感じられる夕暮れ時。
足音がひとつ、並んで響く。
横をちらりと見ると、水戸洋平が手をポケットに突っ込んだまま歩いていた。
「……何してんの?」
思わず問いかけると、洋平は肩をすくめて見せる。
「いや、たまたま帰る方向が同じなだけだろ。警戒すんなよ。」
軽口めいた言葉に苦笑いを浮かべ、優も歩幅を合わせた。
しばらくの沈黙。
グラウンドの掛け声が遠ざかるにつれて、夕暮れの音が際立つ。
ふいに、洋平が口を開いた。
「……さっきの、悪かったな。」
「え?」
「花道に教えてるの見て……コーチでもやんのかって。冗談で言ったけど、別に笑いごとじゃねぇんだよな。」
洋平の声は低く、普段よりも少し真剣で。
優は立ち止まりそうになる足をそのまま動かした。
「……バスケ、ほんとにやめるんだな。」
問いかけというより、確認するような響きだった。
少しの間を置いて、優は小さく頷いた。
「……うん。もう、やらない。」
洋平が足を止める。
その顔に浮かんだ表情は、夕暮れの影でよく見えなかった。
「……もったいねぇな。」
一言だけ呟いて、すぐに歩き出す。
「え?」と声を漏らす優に、洋平は顔を向けずに続けた。
「……でも、そーいうの、嫌いじゃねーけどな。」
優の胸に、小さな波紋が広がる。
返事をする前に、洋平は先に歩幅を広げ、少し前を歩いていた。
夕陽に伸びた二人の影が、ほんの少し重なっていた。
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