恋の始まりは誰も知らない

春の柔らかな日差しがグラウンドに降り注ぐ中、みょうじなまえは新入部員たちを迎えるため、準備をしていた。入学式から数日、まだ少し緊張が残る初々しい空気。

「先輩……彼氏いますか?」

突然の声になまえは振り返った。そこには、無表情に近いけれど真っ直ぐに自分を見つめる一人の少年――降谷暁。青道高校の1年生、野球部に入部したばかりだ。

「え、ええっと……いませんけど……」

なまえがぎこちなく答えると、降谷は小さく頷き、口元に微かな笑みを浮かべた。それは、普段の無表情とはまるで違う、少しだけ柔らかい顔。

練習が始まると、降谷はひたむきにボールを追いかけ、黙々と守備練習に励む。なまえはそんな姿を見守りながら、ふと思う。

「……この子、何だか放っておけないな」

休憩時間。グラウンドの片隅で、降谷が飲み物が入ったコップを手に歩み寄ってきた。

「……先輩、これ、飲みますか」

無言で差し出されたコップに、なまえは少し頬を赤らめる。
「ありがとう、降谷くん……」

普段は無口な彼が、こんなに近くで、少しだけ照れくさそうに笑う。なまえの心臓は、ほんの少しだけ早鐘を打った。

「……先輩、ここ、教えてもらえますか」

練習の合間に、降谷は自然となまえに質問してくる。無表情で真剣に聞くその瞳は、いつものクールな彼とは違う、少年のような熱意を帯びていた。

なまえは微笑みながら指導する。時折、降谷が真剣に聞き入る顔を見せるたび、思わず胸がきゅんとする。

「……先輩、今日、ずっと見てました」

帰り際、降谷はふと呟いた。なまえは立ち止まり、振り返る。

「見てた、って……?」

「……えっと……先輩のこと、ずっと」

小さな声。けれど、そこには確かな気持ちが込められていた。きっと部活の休憩の時やちょっとした時間の事なのだろう……普段の無口さとのギャップに、なまえの胸は高鳴る。

グラウンドに残る夕日が、二人の間をほんのりとオレンジ色に染めた。降谷の不器用な一歩、なまえだけに見せる笑顔。初めてのデレデレ降谷に、なまえは思わず微笑むしかなかった――