◇50 8月18日その後B

「ハンター斡旋所、とは名ばかりで、ここは『ハンターごっこ』したいやつらの遊び場でしかねーのさ」
レオリオに耳打ちされた内容は中の様子を見れば見るほど頷ける。
こぢんまりした斡旋所の中には壁一面を覆う大きなボードが両脇に設置されていて、仕事内容、報酬額などの書かれた依頼票が無造作に貼り付けられていた。ハンターは受けたい依頼票を取り、奥のカウンターへ持っていく。するとここの管理者だろう、タバコをふかしたおじさんが書類を出してくるので、それにサインをすると契約完了。
観察するに仕事を受ける手順はこうだ。
なお、おじさんの隣には奥様らしき同じくヘビースモーカーなマダムも座っていて、彼女に依頼品を渡すと報酬金がもらえるようだった。

「アカネ草の茎10本求ム、剥製用皇帝オウムの捕獲、ソフトビートルの生け捕り珍味用……うげげ」
レオリオと並んでボードを眺めている間にも依頼票が取られたり、時折戻されたり。その様子もしばらく観察しているとだんだん傾向が分かってきた。
人気なのは害獣退治や人探し・物探し。
逆にさっき読み上げた採取や捕獲の案件はパッと見割が良さそうでもはけが悪い。
それはなぜか。答えは簡単、地味な仕事だから。

――その時ワシはシルバーウルフの牙を紙一重で避け、剣を構えたんじゃ――

――次も俺に護衛を頼みたいって何度もせがまれてちまってよォ――

中央のテーブルで談笑するクセ強軍団から漏れ聞こえるのは揃いも揃ってこんな自慢話ばっかり。
つまり、ここのユーザーにとって一番重要なのは、同業者に自慢できる武勇伝を作れる依頼かどうか、なのだ。

「どうするホリィ」
「私、試しに受けてみよっかな」
すでにつま先がドアに向いていたレオリオが、ぎょっとした顔で私の肩に手を置いた。
「お前正気か?!こんなガキのお使いみたいな……」
「だからいいんじゃない。10日ほどちょっとしたお小遣い稼ぎするにはおあつらえ向きだと思わない?」
私達がボードに向き直ったタイミングで、カウンターの奥にあるドアからひょろっと背の高い男の人が入ってきた。同時にうんざりする自慢話はピタリと止み、どよめきと共にテーブルから椅子を引く音があちこちから聞こえてきた。
斡旋所にいる全員の注目が集まる先。先ほどの男の人はのろのろボードの前までやってきて、手に携えた紙束を一枚めくった。
追加の依頼票だ。
新規案件が次々貼り出されるのを、周りは固唾を飲んで見守っている。
そのうち、とある一枚が貼られると彼らにとって好条件なのか、いくつもの腕がわっとボードへ向かっていった。

【ペットのジュリアーナちゃん 捜索依頼】

その腕をかいくぐり、伸ばした手に依頼票を収めるのは今の私にとってさほど難しくない。
「ふふん、ここの見栄っ張りハンターもどき達にプロの実力ってやつを見せつけてやるわよ!」
「調子に乗って痛い目見なきゃいいがな」

・・・

「は〜……」
「ほらな?言わんこっちゃない」

ペットのジュリアーナちゃん捜索依頼。
依頼票とカウンターで聞いた詳細によると、ちょうど斡旋所に来る途中通った荒野で飼い主さんがうっかり逃がしてしまったとのこと。
ジュリアーナちゃんの特徴はふさふさの黒い毛並み。手のひらサイズの小さな体。それから――足が8本あり、おしりから糸を出すそうだ。

「ちょっと休憩〜!」
ジュリアーナちゃん……一般的に「タランチュラ」と呼ばれる生き物は餌でおびき寄せるのは難しく、岩陰や水場を地道に探すしかない。電脳ページの情報を頼りにひたすら捜索を続けていたが、疲労に耐えかねた私は雑草が密集する木陰に体を投げ出した。
「蜘蛛……蜘蛛……そういえばクラピカ、元気かなー」
「知らねェ。アイツ、いつ電話しても繋がった試しねーし」
すると大きく伸びをしながら近づいてきたレオリオも私の隣で横になった。
「そうなの?私前に電話した時は出てくれたよ?」
「なにっ!」
「忙しいって3秒で切られたけど」
ひとしきり笑って仰向けになると、なんだか懐かしい気持ちが湧き起こってくる。4次試験もこうやってレオリオとしゃべったなぁ。漠然と思い出していたら、ハンター試験の時みてえって隣で呟く声がして嬉しくなった。
あの時は星が綺麗に見える夜だったけど、今は太陽が眠る準備をしている最中でまだ星は見えない。代わりに一足先に現れた三日月だけが黄昏に浮かんでいた。
あと少しで夜がくる。そしたら、日中じっとしていたであろう夜行性のジュリアーナちゃんが遠くに逃げてしまう可能性がある。
困ったなー。
困ったら、そうだ、まずは「凝」。
ふと思い立ち、体を起こして目にオーラを集中させる。ぐるりとそのへんを見回したけれど、残念ながら手応えは特に感じられなかった。
当たり前か。ジュリアーナちゃんが煌々とオーラを放つスーパータランチュラなら話は別だけど。あ、もしかしてこういう時は「円」の方が有効?そう思い円も試みたものの、汗がにじむばかりでろくすっぽ張れやしない。
凝もものすごく集中力を使うからとっても疲れるんだけど、円はそれ以上。バテバテの体じゃ無理だったみたいだ。

念を使えば何でもできる気になっちゃったけど、そうじゃないよね。
凝も円も適切に使わなきゃ意味がない。オーラは無尽蔵でもない。どう使うか判断するのは結局自分次第なんだ。

「ホリィどうした?」
「凝を使えば見つけられないかなーって思ったんだけど、そんなうまくはいかないよね」
「ははは!なんだそれ!」
不思議そうに私へ声をかけたレオリオは寝転がったまま大きく口を開けた。
「祈祷師の術か何かか?」
え?
レオリオ、念は覚えたって言ってなかったっけ。



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