列車にゆらゆらと揺られること、どのくらいたっただろうか。
過ぎていく窓の外の景色も見慣れたものへと変わっていく。
……。
みたいな感じで始めたかった。
そう、始めたかったのだ。
「うっ…、は、ハッピーまだか、まだつかないの、か…?」
「あと少しだよー」
隣に座っている喋る青い猫、ハッピーにそう聞けば呑気な声が返ってきた。
「う、…うぷ」
ぐるぐると回る視界。
あまりの気持ち悪さに言うことを全く聞かない自分の体。
毎度のことではあるが、こうも酷いと自分の体質を呪いたくなる。
そう、乗り物酔いだ。
乗り物全般何に乗ろうと酔ってしまう。
試しにとある店に売ってあった酔い止めを気休めに飲んだが、全く効かなかった。
「あ、ナツ!もうすぐ着くよ!」
そろそろ本当にヤバイと思った時、そんなハッピーの声が聞こえた。
それと同時に列車内にハルジオンにもうすぐ着くというアナウスが流れる。
や、やっとハルジオンまで帰ってきたぞ…。
「お、おう…」
と気弱な返事を返した。
ハルジオンの駅にて。
「あ…あの…、お客様…だ、大丈夫ですか?」
乗り物酔いで列車が止まって、少したった今でも相変わらず死にかけているナツに駅員が声をかける。
「あい。いつもの事なので」
と、ナツの代わりにハッピーが答える。駅員はそれを聞くと苦笑いをしながらどこかへと去ってしまった。
「む、無理っ!!もう二度と列車には乗らん…」
ふらふらと立ち上がりながら、もう幾度となく言った言葉をまた呟く。
そして、風を少し浴びようと窓の外へと体を半分出す。
「情報が確かならこの街に火竜(サラマンダー)がいるハズだよ。行こ」
ナツとは反対に元気なハッピーはそう言いながら列車を降りる。
後ろで、ちょっと休ませてという声にうんうんと頷きながら振り返った瞬間、
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン
と、列車が動き出してしまった。
「は、ハッピー!!た、たすけ…うぷ」
窓に身を乗り出したままハッピーに手を伸ばすナツだったが、届くはずもなく段々とハッピーから遠ざかる。
そしてまた乗り物酔いを発動させてしまった。
◇◆◇
あれから少し時間が経ち、ナツとハッピーは街をふらふらと歩いていた。
散々な目にあったナツの足取りは心無しか重い。
「はぁーあ、列車には2回も乗るし…」
「ナツ、乗り物弱いもんね」
「腹は減ったし…」
「うちらお金ないもんね」
1人と1匹ではぁとため息をつきながら、そんな会話をする。
「なぁ、ハッピー。サラマンダーってのはイグニールのことだよなぁ」
「うん。火の竜なんてイグニールしか思い当たらないよね。」
ハッピーのそんな言葉にナツの表情は明るくなる。
「やっと見つけた。ちょっと元気になってきた!」
「あい」
そんな会話をしているとすぐそこの広場から、
きゃーサラマンダー様!!
きゃー!
という女の子達の悲鳴に近い甲高い声が聞こえてくる。
そちらを見れば、人集りが出来ていた。
「!いま、サラマンダーって?!…ホラっ!噂をすればなんたらって!!」
「あい!!!」
ナツとハッピーは小さくガッツポーズをすると、その人集りに急いで近づく。
何故か目をハートにさせ、中心にいる人物に注目している女の子達の波を押しのけて、ぬっと前へと躍り出た。
「イグニール!!!」
「!」
大きな声でそう言いながら、顔を上げる。そこに居たのは謎のおじさん。
「……」
「……」
その人としばらく見つめ合う。
ま、まさかコイツがイグニ…、いやそんなまさか。
「誰だ、オマエ」
「!!!」
そう言えば、一瞬ガーンという効果音が付きそうなほど落ち込んだが、すぐに切り替えおじさんは手を顎の下へと持ってきた。
そして言う。
「サラマンダーと言えば、分かるかね?」
キリッとキメ顔でそう言ったおじさんに少々呆れる。
絶対にイグニールじゃないや。全くの別人だ。
そう理解するとナツとハッピーは、ため息をつきながらその人集りから出る。
すると、
ぐいっ
「うぇ…!?」
「ちょっとアンタ失礼じゃない!?」
と、女の子達にマフラーを引かれる。
く、首が締まる。苦しいともがこうとするが女の子達の力は強く解放してもらえない。
すると、自称サラマンダーのおじさんの「その辺にしておきたまえ」という一声で解放してもらった。
全くマフラーが伸びたらどうしてくれるんだ。と内心思いながら、何やら厚紙にペンで書いているおじさんを見つめる。
そして、それが書き終わると、
「僕のサインだ。友達に自慢したまえ」
と、厚紙をこちらに押し付けようとしたので、一言。
「いらん」
正直にそう言えば、何故か女の子達に投げ飛ばされた。
「うぐっ」
最近の女の子は怖いなと思いながら、宙で一回転をして着地する。
「人違いだったね」
こちらに駆け寄ってきたハッピー。
その言葉にそうだなと頷きながら、変な魔法を使って帰っていったおじさんがいた方を見る。
「なんだ、アイツは」
と呟いていると、
「本当。いけすかないわよね」
という声が聞こえてきて振り返った。
そこに居たのは1人の金髪の女の子。
いつの間に自分の後ろに立っていたのだろう。
「さっきはありがとね」
「え?」
ニコリと微笑みながらそう言った彼女の言葉にん?と首を傾げた。
(僕らの旅はまだ途中)
(終わりはまだまだ遠くにある)