ブルーベリージャムが甘すぎた。


___人食い虎

最近巷でよく噂されているそれは可愛らしい女の子だった。そのことに関しては依頼で人食い虎を探していた太宰治も国木田独歩も驚いた。


ある日、偶(たまたま)川を流れていた太宰を助けた中島敦という少女は、孤児院から追い出されたらしい。そして、空腹だった。お茶漬けを所望する彼女に(国木田が)奢ってやり、それまでの彼女の経緯を聞いていた。敦という名は女にしてはやけに男っぽいとは感じたが、世の中には女に男のような名をつけたり、男に女のような名をつけたりする親は沢山いる。それを考えるとあまり不思議ではないのかもしれないと感じた。それに彼女の一人称は「僕」であるし、意識して声を低くしているように思えた。時々声が高くなるのを見て伺える。見るからにそちらが素だろう。襤褸(ぼろ)を纏った姿も経緯もその形も明らかに訳ありであることに2人は気づいていた。

「えっと、そう云えばお二人は何の仕事を?」

お茶漬けを食べ終わった彼女はそう云って首を傾げる。よくよく見たらその容貌は可愛らしく矢張り格好とは何処か不釣り合いだった。

「なァに、探偵さ」
「探偵と云っても、猫探しや不貞調査ではない。斬った張ったの荒事が領分だ。」
「荒事…?」
「異能力集団『武装探偵社』を知らんか?」
「…武装、探偵社?」

聞いた事あるような、ないような…?そんな表情を浮かべた彼女は、「名前からして凄そうだな」とポツリと呟いた。確かに一般人からしてみればそのような感想が普通なのかもしれない。


「あの鴨居、頑丈そうだね。例えるなら人間一人の体重に耐えれそうな位…」
「立ち寄った茶屋で首吊りの算段をするなっ!あと、小僧も頷くな!」

太宰にしてはあまり煩くないなと先程から思っていた国木田は、その理由が彼の言葉から分かって思わず声を荒らげた。心の中で鴨居を見つめてそのようなことを考えていたため静かだったらしい。

「違うよ、首吊り健康法だよ。知らない?」
「何!?あれ、健康にいいのか!?」

そんなけったいなものがある訳無いはずなのにどう云う訳だがそれを信じた国木田は太宰のその首吊り健康法とやらの説明を聞き、真面目に手帳に書き記し始める。本当に奇妙な光景が繰り広げられ、敦は困惑した表情だった。

「あの、そ、そう云えば、探偵のお二人の今日の仕事は?」
「虎探しだ」
「と、虎探し??」
「近頃、街を荒らしている『人食い虎』だよ。最近、この近くで目撃されたらしいのだけど……」

ガタンッ

太宰さんがそう云った瞬間、敦は顔を真っ青にしながら立ち上がる。明らかに何かを知っている。そう瞬時に2人は理解する。

「ぼ、僕はこれで…、し、失礼します…!」

焦りからかまた高くなった声で云って、後ずさり逃げようとするが、

「待て」

国木田が後ろから襟を掴み持ち上げる。脚がつかないために、ジタバタと抵抗するが離してもらえない。

「無理だ!彼奴に、彼奴に人が敵うわけない!」
「貴様、『人食い虎』を知っているのか?」
「………っ」

無言の肯定、つまりそういうことだろう。何も話さない彼女を無言を国木田はは地面へと下ろし、勢いよく押さえつける。

「云っただろう、武装探偵社は荒事専門だと」
「まあまあ、国木田君。君がやると情報収集が尋問になる。社長にいつも云われているじゃないか?」

と云う太宰の声で、強く拘束されていた腕が解放された。拘束を解いたからといって話をするまで逃がすつもりはないが。

「それで?君と『人食い虎』には何か関係があるのかい?」
「………うちの孤児院は虎に壊されたんです。畑も荒らされ、倉も吹き飛ばされ、それで立ち行かなくなって僕は追い出された。」
「敦君」
「虎の狙いはきっと僕なんです。少し前に殺されかけて…」

相変わらず顔が真っ青のまま口を開いた彼女は、寒いわけでは無いはずなのにしきりに腕をさすりながら人食い虎との邂逅について説明する。

「空腹で頭は朦朧とするし、どこをどう逃げたかは覚えていません」
「それは、いつの話?」
「…院を追い出されたのが2週間前。川で彼奴を見たのが、4日前です」
「確かに虎の被害は2週間前からこっちに集中している。それに、4日前に鶴見川で虎の目撃証言もある」

と、手帳を捲りながらそう云う国木田の言葉に何かを考えるような仕草をする太宰。

「敦君、これから暇?君がもし、『人食い虎』に狙われてるなら好都合だよね。…虎探しを手伝ってくれないかな?」

ニコリと綺麗な顔で笑った太宰はいい感じに敦を丸め込んでしまった。

それからは早かったコンテナで敦がその「人食い虎」であることを述べ、そして暴走する異能力を簡単に消してしまった太宰は、ほかの社員たちに敦を入社させることを説明し、あどけない寝顔を晒す敦を連れて帰って空いた寮へと寝かせる。眠る寝顔からは矢張り女の子だろうなと考えながら彼女の新しい服をほかの社員たちと考えることにした。



「僕は中島敦、です。よろしくお願いします」
「おお!偉いねー、敦君!」
「…」

礼儀正しく頭を下げる敦の頭をグリグリと太宰は撫で回す。何だかんだ入社試験を終え、無事入社が決まった敦は社員たちに挨拶をする。

「ああ、そうだ敦君」
「はい?…何ですか、太宰さん」
「君の名前は本当に"敦"かい?」
「っ…え?」
「何を云ってるんだ、太宰」

前にも考えた通り女でも男のような名の人は沢山いるだろうが一応聞いておくことにした。

「何故って、だって敦君。…君は女性だろ?」
「……あれ?分かります?」
「まあ男装しきれてるとはいえませんわね」
「うん、男ぽくはないかな」

うわー、やはり女ってバレてるんだ。そう落胆し始める彼女は何だか愛らしい。ちょっとムッとした表情を浮かべている。そういう所が女の子らしいのだ。

「敦という名は孤児院の院長から男として生活しろと云われた時に貰いました。本当の名は尊って云います」
「どちらで呼べばいいかな?」
「尊の方はあまり呼ばれ慣れないのでその、敦の方が良いです!」

自分の本当の名前を呼ばれ慣れないと云うのも少し可笑しな話だが、ずっと''敦"と呼ばれたり、名乗るうちにそちらに慣れてしまったらしい。

「はあ…。普通に女だって認識されてるんだったら、今まで意識して声替えたりとかしてた自分が恥ずかしい…」

そう云って顔に手を置いて恥ずかしがる彼女が更に愛らしく思えたらしいナオミは思わず敦を抱きしめる。それを更に恥ずかしがって彼女は更に顔を真っ赤に染めた。

(かわいいですわ!!)
(ひえ、恥ずかし…い!)

◇◆◇◆◇◆◇
リクエストありがとうございます!もしも敦ちゃんが初めから少年でなく少女と認識されていたらというものでしたが、初めから認識されていてもキャラの心情が異なる感じになりますかね。あとは長編主より更に可愛がられそうって感じです!

-13-

back / top


ALICE+